| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-149 (Poster presentation)
アポミクシスを行う生物集団の繁殖や遺伝的多様性の実態を明らかにすることは、生物界における有性生殖の意義、言い換えれば、一見不利に見える他個体との交配によって子孫を残すというシステムが、生物界で広く見られる理由の解明に迫る可能性がある。
ヤマコウバシ(クスノキ科クロモジ属)は、東アジアに生育する雌雄異株の低木である。大陸には雌株と雄株が生育しており有性生殖するが、日本には雌株しか生育しておらず、雌株が単独でアポミクシスにより種子生産することが特徴である。そのため、集団内の遺伝的多様性は低く、また集団ごとに異なる遺伝子組成をもつことが予想される。しかし、本種の集団の遺伝的多様性や遺伝構造は明らかになっていない。
本研究では、まず、アポミクシスするヤマコウバシの種子生産の過程で、親子間や兄弟間で遺伝的変異が生じる可能性を探るため、母樹と種子の遺伝子型が一致しているかどうかを調べた。次に、集団の存続の可能性を探るため、集団内の個体間での遺伝的変異の有無や程度を調べた。さらに、ヤマコウバシの日本での分布拡大の過程を明らかにするために、広域の遺伝構造を調べた。
4本の親木から8個ずつ種子を採集し、MIG-seq法により、多数の一塩基多型を検出したところ、親子間にはほとんど変異が生じず、遺伝的多様性は生まれにくいことが分かった。また、愛知県から佐賀県までの8カ所の集団において、1集団あたり3~8本の成木の遺伝子型を比較した。その結果、集団内の個体間にも変異は見られなかった。さらに、集団間で遺伝子組成を比較したところ、集団間にも遺伝的変異は見られなかった。今回調査したヤマコウバシの集団の遺伝的多様性は極めて低く、また単一の系統が分布拡大していったと考えられた。