| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-151 (Poster presentation)
サトイモ科テンナンショウ属の多年生草本マムシグサは雌雄異株であるとともに、雄個体から雌個体へまたは雌個体から雄個体へと可逆的な性転換をする。北海道札幌市近郊の防風林で行った研究より、マムシグサの性転換が個体の持つ資源量に依存していることが示された。具体的には、雄は個体サイズの増加によって雄から雌に性転換し、雌は前年に多くの種子を生産した場合に、雌から雄に性転換する。そこで、本研究では性転換に伴う球茎の花芽形成に着目して、マムシグサの性が決定する時期を明らかにすることを目的として行った。
調査は札幌市近郊の防風林内のマムシグサ(狭義のコウライテンナンショウ)個体群で実施した。まず開花期に雌雄の開花個体について資源量をコントロールする以下の4つの操作実験を行った。雄個体に関しては、1)翌年雄に留まる個体として、個体サイズが小さい雄を、2)雄から翌年雌に性転換する個体として、個体サイズが大きい雄を選択し、マーキングを施した。一方雌個体に関しては、3)翌年も雌に留まる個体として、種子生産を行わないように花序の切除処理を行い、4)翌年雄になると想定される個体として、種子を多く生産させる(より資源を消費させる)ために強制他家受粉処理を行った。各処理、約100個体を準備した。開花終了直後の6月末から毎月5~10個体ずつ地下部の球茎の掘り起こしを行い、花芽の発達状態を実体顕微鏡下で観察した。
その結果は、雌個体の4)の処理において、種子生産後に翌年の雄の花芽が形成されるという予想に反し、8月初めという果実が完熟する前に雄の花芽の発達開始が認められた。さらに、1)、2)、3)の処理に関しても、同時期の花芽形成開始が認められた。このことから、マムシグサの特に雌の性転換については種子生産量に依存するのではなく、それよりも早い受粉や受精の時点で、翌年の性を決定する何かの要因が働いていることが示唆された。