| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-160 (Poster presentation)
植物の中には、暗い林床で光合成を行わずに全ての炭素源を菌に依存する菌従属栄養植物が知られている。ホンゴウソウ科ホンゴウソウ属 (Sciaphila)もその特殊な生態をもつグループで、アジアを中心に世界に約40種分布するとされる。また、その稀少性から多くが絶滅の危機に瀕しており、2016年に屋久島で発見されたヤクシマソウS. yakushimensisは、種の保存法によって国内希少野生動植物種に指定されている。しかし、ヤクシマソウは本州以南に広く分布するホンゴウソウS. nanaと同所的に生育しており、両種の中間的な形態の個体も見つかっている。
本研究では中間的な形態の個体は両種の雑種であると予測し、ゲノムの縮約解読情報に基づいて、これらの分類群の系統関係や雑種形成を検証した。MIG-seq法 (Suyama & Matsuki 2015)によりゲノム情報を縮約解読し、RAxML (Stamatakis 2014)による最尤系統樹の構築、STRUCTURE (Pritchard et al. 2000)による遺伝構造解析を行った。その結果、ホンゴウソウとヤクシマソウは遺伝的に分化した4つのグループ、すなわち、屋久島以北のホンゴウソウ、沖縄本島北部のホンゴウソウ、ヤクシマソウ及び九州から南西諸島に分布するホンゴウソウ、両種の中間的な形態の個体を含む系統群で構成されることが分かった。従来、形態に基づいてホンゴウソウとされてきた集団内には、明瞭に分化した4つの隠蔽系統が内包されていた。屋久島に局所分布するヤクシマソウは南西諸島に広く分布するホンゴウソウを取り込む分類群であり、中間的な形態を示す個体については雑種ではなく、両種とは異なる系統であると考えられる。