| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-204  (Poster presentation)

自家和合性植物の進化的袋小路における生態的分布拡大
Expansion of ecological distribution in evolutionary dead end of self-compatible plants

*佐藤雄亮, 瀧本岳(東京大学)
*Takeaki SATOW, Gaku TAKIMOTO(Tokyo Univ.)

被子植物には自家受粉による繁殖を妨げる自家不和合性が存在する。自家不和合性の喪失は、個体群の遺伝的多様性の減少や絶滅を引き起こす進化的な「袋小路」であるという仮説が提唱されている。この仮説を支持する結果が、ナス科約2300種の系統解析から報告された。自家和合性の系統では、種分化率が高いものの絶滅率も高く、その結果多様化率が低くなっていたのである。進化的袋小路とされる一方で、自家和合性の獲得は、被子植物全体で広く見られる傾向である。さらに、被子植物15科の自家不和合性種に比べ、自家和合性を持つそれぞれの近縁種において、分布域の面積や環境幅がより広くなっていることが報告されている。しかし、絶滅率を高めるような形質を持った系統が、広い分布域を維持できるものだろうか。本研究では、自家和合性植物種が高い絶滅率でありながら広い分布域を実現するという野外研究の結果を、自家和合性のパラドックスととらえ、この現象を説明することを目的とした。そのため、自家和合性の獲得に伴う遺伝的多様性の減少と繁殖保証の2つの特徴に注目し、以下の仮説を立てた。自家和合性種は、適応している環境では繁殖保証により個体群の定着率は高まり分布拡大しやすくなる。一方、環境変動に対する進化的な救済が起こりにくくなるため絶滅率は高まる、という仮説である。この仮説について、コンピュータシミュレーションモデルを用いて理論的に検証した。このパラドックスが再現されたのは、定着率と遺伝的多様性とが反比例するパラメータのセットのみであった。それ以外のパラメータでは、定着率、遺伝的多様性が共に高いときは自家和合性が優占し、共に低い場合は自家和合性がほぼ絶滅してしまった。この結果から、自家和合性のパラドックスを説明するためには、自家和合性の獲得による遺伝的多様性の減少と繁殖保証の恩恵との間のトレードオフが重要である可能性が示唆された。


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