| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-250  (Poster presentation)

二ホンジカの過増加が食糞性コガネムシの食性に及ぼす影響
Effects of an increase in population of sika deer on dung beetle diet in forests ecosystem

*山隼人, 小池伸介(東京農工大・院・農)
*Hayato YAMA, Shinsuke Koike(TUAT Univ.)

食糞性コガネムシ(以下、糞虫)は、動物の糞を成虫および幼虫時に食物として利用する。動物の糞には有機物や種子が含まれていることから、窒素などの栄養源を土壌内に還元させたり動物によって散布された種子の2次散布をしたりするため、物質循環系での重要な機能を持つ。糞虫の食性は一般的にジェネラリスト種であり、哺乳類動物各種の糞を幅広く利用するが、特に幼虫時は成虫と比べて1種類の動物からなる糞のみを利用するため、その食性は餌の供給源となる動物相や動物各種の個体数の変化を受けやすい。よって本研究では、二ホンジカの過増加に伴う環境の変化が、糞虫の幼虫時の食性に及ぼす影響を明らかにすることとした。
 まず、野外で糞虫が利用している動物種の糞では、タヌキおよびアナグマの糞が他の哺乳類の糞よりδ15Nが有意に高かった。また、糞虫では、大型種の糞虫では、シカ低密度区と比べてシカ高密度区において、成虫の外骨格のδ15Nが有意に低くなり、個体数の減少も見られた。これは、糞虫の中でも大型種は、小型種と比べて高質(窒素含有量や水分含量が高い)な糞を必要とするとされるが、シカの高密度化による下層植生の衰退により、タヌキやアナグマなどの高質な糞の乾燥化が進行し、大型種の糞虫が十分に高質な糞を摂取することができなくなり、低質なシカの糞を多く利用するようになった可能性がある。一方、小型種でも、従来は様々な動物の糞を利用していたのが、シカの高密度化に伴いシカの糞の利用頻度が高くなった可能性が示唆された。糞虫による糞の分解量は大型種ほど高く、またタヌキやアナグマなどの動物質食の強い哺乳類動物の糞には窒素や多くの植物の種子が含まれているため、シカの過増加による糞虫の幼虫の食性の変化は、様々な生態系機能に影響を及ぼしている可能性が示唆された。


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