| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-273 (Poster presentation)
生物の形質的多様性は、生息地の環境フィルタリングに応答して生成、反映されるため、種多様性と同様に生態系機能を評価する要因となる。線虫は周辺の微環境の変化に鋭敏に応答するため、非生物的、生物的な生息環境の変化は線虫群集の形成に影響を及ぼすと考えられる。本研究は標高傾度とそれに伴う植生変化が線虫の群集構造と機能特性へ与える影響の解明を目的とし、異なる標高に生息する土壌線虫のDNAメタバーコーディング解析と体サイズ推定を行った。滋賀県に位置する伊吹山の異なる5標高における植生群落(200m、500m、800mはスギ林、1100mはカエデ林、1350mは頂上付近で草本類)を対象に、リターを除いた表層土壌を2018年7月に採取した。分離された線虫はIon Torrent PGMを用いて18Sの部分領域(~400bp)を対象に網羅的に塩基配列を決定した。得られた配列は97%で操作的分類群(OTU)に分け、非類似度多次元尺度法(NMDS)を用いて群集構造と環境要因との連関を調べた。さらに光学顕微鏡下で線虫の体長と体幅を測定し、体サイズ推定をした。その結果、全体で1141OTUsが検出され、標高単位での分類群の多様性は1100mで最も高く(827OTUs)、800mで最も低かった(360OTUs)。1100mにおける線虫の体サイズは、他の標高のものに比べて有意に大きくなった。NMDSによる標高間の線虫群集は有意に区別され、気温、土壌pH、リター厚さや土壌菌糸量がその群集形成に有意に影響した。以上より、土壌線虫群集は生息地周囲の非生物的・生物的要因の影響を受け、群集構造と形質の特性は標高傾度に伴う植生変化と土壌養分が規定していると考えられた。