| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-276 (Poster presentation)
全球スケールでの降水パターンの時空間的な変化など、生態系に対する気候変動の影響が 懸念されている。既存研究では、降水量操作実験により、降水量変動が草原生態系の植物群集構造や様々な生態系機能に影響すると報告されている。
また、近年では植物群集構造と生態系機能の関係に関心が高まっており、草原生態系の群集組成を操作する実験により、群集構造が生態系機能の変化に寄与することが明らかになった。その原因として、種多様性-生態系機能とバイオマス比率仮説が挙げられ、生態系機能の向上に種の数か、個々の種の量の重要性は頻繁に議論の対象となっている。
しかし、多くの既存研究は群集構造を人為的に操作しており、自然本来の群集集合プロセスを経ていない生態系で実験が行われてきた。そのため本研究では、群集組成を操作していない野外の草原生態系にて降水量操作実験を行い、降水量変動が草原生態系の多様な機能(多機能性)に影響を与えるプロセスを評価した。
北海道大学天塩研究林の草原に調査地を設定し、対照区、干ばつ区、増雨区に区別して 10 個ずつランダムに設けた。また、環境要因と生態系機能、植物形質を調査した。生態系機能には、炭素や窒素循環に関わる機能を対象とした。植生データから種数、均等度指数を算出し、形質データから植物群集の機能構造を評価した。さいごに、降水量操作が草原生態系の環境要因、植物群集構造および多機能性に影響を与えるプロセスを評価するために、パス解析を行った。
結果としては、降水量変動による土壌水分の変化が多機能性に対して直接的、間接的に影響していた。また、生態系の多機能性の向上には、植物群集内の種数よりも各種の優占度を考慮することで説明力が上がり、バイオマス比率仮説をより強く支持した。本研究により、降水量変動下の草原生態系の多機能性の維持に、種多様性よりもむしろ優占種の応答が重要な役割を果たす可能性が示唆された。