| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-278 (Poster presentation)
氷期と間氷期の繰り返しのような大規模な気候変動は、生物の分布の不連続化とその後の急速な分布拡大を引き起こす。このような急速な分布変遷は集団の遺伝構造を変化させ、種分化の要因になると考えられている。青森県のブナは、最終氷期中には分布が制限されていたが、氷期後には分布を拡大したことが分かっている。この際、ブナ林に生息する昆虫も同じように分布を変化させ、氷期中に遺伝的に分化し、氷期後の二次的接触によって、交雑とそれによる進化現象が起きた可能性がある。
これを明らかにするため、本研究では、氷期の逃避地への隔離によって集団間に遺伝的分化が生じたか、また、氷期後に交雑に伴う遺伝子浸透と、繁殖形質に形質置換が生じたかを調べる。そのために、コウチュウ目ジョウカイボン科Asiopodabrus 属を対象として、mtDNAのCOI領域と核DNAのWg領域を用いた遺伝子解析と、雄交尾器の形態解析を行った。
2015年から2018年にかけて22か所の地点で調査し、9種477個体を採集した。そして、COIとWgを用いて遺伝的距離と地理的距離に相関があるかを調べた結果、COIでは一部の種で有意な正の相関がみられた。また、COIを用いて作成した系統樹ではほとんどの種が形態による分類と一致した系統関係を示したが、アオモリクビボソジョウカイ(A. aomoriensis、以下アオモリ)とトワダクビボソジョウカイ(A. towadanus、以下トワダ)が単系統を形成せず、単独生息地のアオモリがトワダのクレード内に含まれた。しかし、Wgを用いて作成した系統樹では、単独生息地のアオモリはトワダのクレード内には含まれなかった。このことは、交雑によってmtDNAで遺伝子浸透が生じたことを示している。また、雄交尾器の形態はアオモリとトワダの種間では有意に異なったが、種内では違いがみられなかった。このことから、2種の間では交雑を避けるような形質置換は生じていないことが明らかになった。