| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-285 (Poster presentation)
土地改変などの人為活動が生物多様性の低下や生物群集の変化を引き起こしている.それらの結果として,生態系機能やサービスへの負の影響も懸念されている.生物多様性はさまざまな生態系機能(多機能性)を担保する役割を担っているが,自然群集における知見は十分であるとは言い難く,これらの解明が求められる.さらに,群集だけでなく個々の種に着目し,種の多機能性に対する重要度を定量化することが重要である.本研究では森林の草本植物を対象として,α多様性および時空間的β多様性と多機能性の関係,および種の機能的重要度を評価した.
調査は,知床国立公園内における天然林および森林再生運動が行われている混植林,カラマツ人工林,草地の計4つの植生を対象とした.2013年と2018年において下層草本植物種の種名と被度を記録した.生態系機能は土壌生物化学プロセスに関連する8項目,環境要因として土壌含水率やpH等を測定した.多機能性解析には閾値アプローチを使用し機能間トレードオフを考慮した.機能的重要度はシミュレーションを用いて算出した.
結果,種数だけでなく,空間的な種組成の違いも多機能性に強くかかわることが見いだされた.また時間的な種組成の変化は,多機能性に対する種間の保険効果の存在を示唆した.これらのことから,自然群集では時空間的な種分布のばらつきが多機能性を支えていると考えられる.また,個々の種のもつ多機能性に対する重要度には種間差があり,周囲の環境変化や求める多機能性の水準によっても機能的重要度が変動することが示唆された.言い換えると,個々の種が生態系機能に対して果たす役割は一様ではなく,個々の種は機能的に冗長ではないと言える.以上より,生態系の多機能性の維持には,種数だけでなく種組成の違いを考慮することが肝要である.現実社会の生物多様性保全においては,時空間範囲を考慮した上で個々の種に着目することが必要であると考える.