| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-294 (Poster presentation)
[背景・目的]
関東地方周辺地域において、ニホンジカ(Cervus nippon)による森林被害が急増している。集団遺伝学的解析と地理的分布情報を組み合わせた景観遺伝学的解析は、野生動物の遺伝子の不連続分布性を明らかにし、河川、山脈、道路などの景観構造と組み合わせることで、地域全体の連続した遺伝特性の把握とその変化に伴う原因の究明を可能とする。本研究では、鯨偶蹄目において変異が多いとされる成長ホルモン(GH)遺伝子多型と緯度経度情報を用いて景観遺伝学的解析を行い、遺伝特性と地理的要因との関係性を明らかにすることで、森林被害低減に必要な適切な個体管理計画の策定に貢献することを目的とした。
[材料・方法]
関東地方とその周辺地域から採取された全174個体のDNAを抽出し、ダイレクトシークエンス法を用いてシカGH遺伝子(全1789bp)の配列決定を行った。配列決定後、ハプロタイプ推定を行い、検出した一塩基多型(SNP)の連鎖不平衡の有無を調べた。その後の解析は、強い連鎖不平衡が見られたSNP(r2>0.9)を除き行った。検出されたSNPと捕獲時に記録した緯度経度情報からGENELAND(Guillot et al.2005)を用いて景観遺伝学的解析を実施し、各集団におけるFst値の算出、無根系統樹解析及びSTRUCTURE解析を行った。
[結果・考察]
景観遺伝学的解析の結果から、集団は大きく二つ(集団1、集団2)に分化した。集団1は埼玉県と東京都の八王子に密集しており、神奈川県にも存在した。集団2は、その他の各地域に散在した。2集団間のFst値は0.18547と有意に分化したが、無根系統樹解析、STRUCTURE解析では分化傾向に留まった。以上の結果から、埼玉県の県境付近に地理的障壁が存在すると考察した。また、八王子は近年新たな生息地となった地域であり、埼玉県から移入してきた可能性があると考察した。今後、実際に個体管理計画策定に貢献するためには、複数の遺伝マーカーを用いて同様の解析を行い、結果の信頼度を高める必要があると考察した。