| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-295  (Poster presentation)

放飼場飼育アカゲザルにみられた鞭虫の偏向寄生と有用な糞便サンプリング法について
The variance of parasite (whipworms) in rhesus macaques reared in an open enclosure and its appropriate method of fecal sampling

*徳重江美, 兼子明久, 前田典彦, 大石高生, 鈴木樹理, 宮部貴子, 森本真弓, 橋本直子, 山中淳史, 石上暁代, 愛洲星太郎, 夏目尊好, Kuek Kenneth, Andrew J. J. MacIntosh, 岡本宗裕(京大・霊長研)
*Emi TOKUSHIGE, Akihisa Kaneko, Norihiko Maeda, Takao Oishi, Juri Suzuki, Takako Miyabe, Mayumi Morimoto, Naoko Hashimoto, Atsushi Yamanaka, Akiyo Ishigami, Seitaro Aisu, Takayoshi Natsume, Kuek Kenneth, Andrew J. J. MacIntosh, Munehiro Okamoto(Kyoto Univ. PRI)

 鞭虫類(Trichuris spp.)は土壌伝染性蠕虫の一種であり、ヒトを含む多くの哺乳類を宿主とする。
 霊長類研究所の放飼場のアカゲザル54頭の鞭虫寄生状況を調べたところ、各個体のEPG(糞便1gあたりの虫卵数)に極端な偏りが見られた。放飼場の個体は、1~2年毎にイベルメクチンによる投薬で一斉駆虫されていたにも関わらず、EPGが非常に高い個体がいた一方、EPGがゼロである個体がも15頭確認された。放飼場内の土壌は鞭虫卵で高濃度に汚染されていると考えられ、感染機会に大きな差があったとは考えにくい。この偏ったEPGの原因は、サル側でも何らかの感染に関わる要因が働いている可能性が考えられた。
EPGは、一般には腸管内の成虫の寄生状況を反映する数値と考えられているが、必ずしも両者の間に相関関係が成立するとは限らないとの報告もある。実際、我々が行った予備的実験でも、糞便の採取日・検査法で大きなばらつきが認められた。そこで、本研究では、成虫の寄生数を反映することの出来る糞便検査法と、一度の処置で確実に鞭虫を駆虫できる駆虫法の確立を目的として実験を行った。

 同アカゲザル群より15頭を選抜し、個別ケージで再感染を防いだ後、コントロール群(A群)、イベルメクチン投与群(B群)、薬品4種投与群(C群)の3群に分け、5~7週間EPGの変動を観察し、最後に剖検で腸壁での成虫の寄生の様子を観察した。EPGの算出にはウィスコンシン変法を用いた。
 結果、B群およびC群では共に薬品投与後の糞便内に死亡した成虫の脱落が見られたが、その後C群では全頭で駆虫が確認されたのに対し、B群では投与後でも2個体で鞭虫の寄生が続いていた。この2個体は同じ母系家系に属していた。
 また、同個体でも糞便によってEPGが大きく変動する場合があることや、成虫の寄生数とEPGの間には相関関係が確認された。


日本生態学会