| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-298 (Poster presentation)
ニホンミツバチは、養蜂種であるセイヨウミツバチと異なる病原抵抗性を持つだけでなく、耐寒性、多様な植物への授粉能力、スズメバチ類に対する特殊な防衛行動を示すなど、在来性の生物資源として注目されている。本種の分布域の北限は青森県、南限は鹿児島県であり、多様なバイオームを持つ日本列島の環境へ幅広い適応をみせていることから、各地域集団に適応的な進化が生じていることが予想される。しかしながら、本種を対象とした遺伝学的研究の多くは、ミトコンドリアDNAやマイクロサテライト遺伝子座などの少数の遺伝領域を対象としていたため、こうした地域環境への局所適応を可能とする遺伝的基盤の詳細は明らかとなっていない。
本研究では、ニホンミツバチの全ゲノム配列を対象としたリシーケンス解析を実施し、本種の集団構造の評価および環境適応に関わる遺伝領域の探索を試みた。東北地方および九州地方で採集された計30個体を対象にADMIXTUREによる解析を実施した結果、南北の集団間で遺伝的分化を支持する集団の遺伝的構造が推定された。次に、Fstをはじめ複数の統計量を用い、南北集団間で異なる自然選択を受けている候補遺伝子群を同定した。これらの候補遺伝子の中には、東北地方と九州地方の集団間の分化への直接的な関与が予想される温度調節や細胞骨格系の遺伝子の他、免疫、受容体、神経系などの集団特有の形質への寄与が示唆される遺伝子が含まれていた。今後は、比較集団の拡大を進めることで、各地域の気候・標高・植生などの環境条件と遺伝子型との関係性を評価し、集団内の遺伝的多様性の形成要因および維持機構の解明へとつなげたい。