| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-301 (Poster presentation)
法面緑化では在来生態系への配慮から、在来種の利用が推奨されている。しかし、種が同じであれば種子の採取地は考慮されないため、緑化に使用されている在来種の種子の大半が中国等から輸入されている。法面緑化に広く用いられるヨモギ(Artemisia indica var. maximowiczii)では、日本で採取した種子をもとに中国で育成して採種した日本由来中国産種子も緑化に利用されている。緑化によって導入されるヨモギと日本の在来ヨモギとの間に遺伝的な差異があれば、日本の地域個体群に対する遺伝的撹乱を生じる可能性がある。そこで本研究ではヨモギを対象に、国内産および緑化用に輸入された中国産種子を播種育成し、形態およびMIG-seq法 (Suyama & Matsuki 2015) により遺伝的組成を比較した。また、異なる地域由来の個体を交配し、結果率と発芽率を調査した。
中国産は日本産、日本由来中国産とは痩果の形状が大きく異なり、遺伝的にも分化していた。しかし日本産と交雑し、稔性のある種子を生産した。雑種の適応度の評価は今後必要だが、中国産種子の利用は在来個体群に対して遺伝的撹乱を生じる可能性があり、緑化への使用は好ましくない。日本国内においては緯度に沿った遺伝的分化が見られた。そのため緑化には中国産だけでなく、国内産でも地理的に大きく離れた地域由来の種子の利用は好ましくないと考える。日本由来中国産の遺伝的組成は東日本産に類似していたことから、東日本で採取された種子が中国での生産に用いられていると推測される。西日本の法面から採取した個体は、大半が地域の自生個体よりも東日本産と似た遺伝的組成を示したため、西日本での緑化でも東日本由来の日本由来中国産種子が使用されていると考えられる。これらのことは、日本由来中国産種子の利用に際して、原種子の採取地を考慮する必要性を示している。以上のように、ヨモギは国内外において遺伝的に分化しており、遺伝的撹乱を避けるためにも地域性種苗の確立が必要である。