| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-327  (Poster presentation)

シカによる下層植生の採食はミズナラ林冠木のシュートレベルでの成長と繁殖を抑制する
Deer grazing indirectly reduces vegetative and reproductive growth at shoot level on canopy trees of Quercus crispula

*長根由紀子(酪農大・農食環境), 東若菜(京大・農), 金子命(酪農大院・酪農), 松山周平(酪農大・農食環境)
*Yukiko NAGANE(Rakuno Gakuen University), Wakana AZUMA(Kyoto University), Mikoto KANEKO(Rakuno Gakuen Univ), Shuhei MATSUYAMA(Rakuno Gakuen University)

 近年、全国的なシカの個体数増加に伴い、森林生態系内で樹皮剥ぎや実生・稚樹の食害といった直接的影響に加え、下層植生の採食が土壌窒素量を減少させるという間接的影響が報告されているが、このプロセスによる高木への間接的影響はまだ検証されていない。そこで、シカの下層植生の採食が高木の成長や繁殖を抑制するのかどうかを検証するため、当年生シュートにおける成長と繁殖、土壌の養分条件を防鹿柵内外で比較した。
 調査は洞爺湖中島内の4地点の防鹿柵を使用した。合計17本(柵内7本、柵外10本)のミズナラ林冠木からそれぞれ一年枝20本を採取し、一年枝の長さ・基部直径・バイオマス、当年枝の長さ・直径・バイオマス・葉バイオマス・果実バイオマス・葉の枚数を計測し、防鹿柵内外で比較した。下層植生については平均被度と平均最大植生高を算出、土壌についてはA0層を採取し、土壌含水率、土壌pH、土壌温度、土壌全窒素濃度、土壌全炭素濃度、純窒素無機化速度を測定した。
 ミズナラの当年枝直径を除く5つの当年枝測定項目において、柵の有無の効果は有意であり、柵内でシュート成長率と果実生産が大きいことが示唆された。純窒素無機化速度は柵外より柵内で有意に大きく、土壌含水率、土壌全窒素濃度、土壌全炭素濃度は柵内で有意に高かった。加えて下層の平均最大植生高が柵内で有意に高かったことから、下層植生の有無による土壌表層の流出防止効果や、リターの存在による土壌の保湿効果など、防鹿柵内外での土壌養分と土壌環境の変化が起きていると考えられた。以上のことから、防鹿柵外の高木の成長と繁殖は抑制されており、その原因は土壌を介した間接的影響によるものだということが示唆された。


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