| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-355  (Poster presentation)

養菌性キクイムシ群集の時空間的動態と"菌泥棒"に着目した種間相互作用
Spatiotemporal dynamics of ambrosia beetle community and interactions among the species focusing on crop theft

*中野文尊, 梶村恒(名古屋大学)
*Fumitaka NAKANO, Hisashi KAJIMURA(Nagoya Univ.)

 本研究は、熱帯域で近年発見された養菌窃盗性という、他種の共生菌を寄生的に利用する特殊な生態をもつキクイムシに関する新知見を得ることに加え、それを含めた養菌性キクイムシ群集の時空間的動態とその相互作用を解明することを目的とした。
 沖縄県西表島の二次林において、地際直径およそ10 cmのタブノキを5本伐採し、1本ずつ1ヶ月、2ヶ月、4ヶ月、6ヶ月、12ヶ月放置した。各放置期間の供試木を割材して養菌性キクイムシの種構成を比較した結果、伐採後4ヶ月を過ぎると材を利用できる種が限られ、6ヶ月の時点でほとんどの種が穿入しなくなった。また、種構成の変化は、伐採後日数の経った材を利用できる新たな種が出現するのではなく、早期から材を利用していた種の優占度が変動することに起因していた。これらのことから、西表島における枯死・伐採木は、4~5ヶ月程度で、急速な消費と劣化によって穿入適期を終え、ほとんどの養菌性キクイムシに利用されなくなると結論付けられた。古くなって劣化した材を利用するよりも、新たに供給される枯死木の利用にシフトする戦略をとった方が繁殖に有利であると考えられる。
 また、材内の観察によって、養菌窃盗性のイシガキザイノキクイムシが壁越しに他種の共生菌を利用するだけでなく、ホストの坑道に自身の坑道を貫通させ、坑道ごと侵略するという破壊的な寄生行動が発見された。さらに、その際にホストとの生活空間を分かつ隔壁が坑道内に形成され、この隔壁の形成位置によって確保できる繁殖スペースが決定し、結果的にイシガキザイノキクイムシの次世代虫数に直結することが明らかになった。壁越しに菌を盗み取る非破壊的な寄生と、他種の坑道ごと侵略する破壊的な寄生の特徴を比較したところ、ホスト種の選択、穿孔のタイミング、次世代虫数の決定要因などが異なっていた。つまり、本種は状況によって異なる穿孔様式を使い分けている可能性が示唆された。


日本生態学会