| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-367  (Poster presentation)

森林性甲虫群集の保全と回復に人工林は貢献しうるか
Can planted forests contribute to conservation and recovery of forest beetle communities?

*金地伊織(明大院・農), 倉本宣(明大・農), 新井一司(東京都農総研), 久保田将之(東京都農総研), 会田秀樹(東京都農総研)
*Iori KANAJI(Meiji Univ.grad.sch.Agric.), Noboru KURAMOTO(Meiji Univ.), KAZUSHI ARAI(Tokyo Agric. For. Res. Cent.), Masayuki KUBOTA(Tokyo Agric. For. Res. Cent.), Hideki AITA(Tokyo Agric. For. Res. Cent.)

近年,特に熱帯地方において木材生産林などの人工林がもつ保全的価値が注目され始めている。しかし人工林における生物群集の保全や復元などに関する知見は未だ不足している。そこで本研究では人工林に生息する糞虫および地表性甲虫に着目し,東京都の山地に位置する人工林において,糞虫や地表性甲虫の群集構造形成に影響を及ぼす要因を明らかにすることを目的とし調査を行った。
 本研究の調査対象地は東京都奥多摩町の山地に立地する東京農業大学奥多摩演習林とした。演習林内の人工針葉樹林に加え,広葉樹二次林,スギが伐採された跡地に広葉樹林の苗木が植栽されている再造林地の3タイプの調査地を設定した。甲虫相調査は2017年8月から2018年10月まで行った。
 甲虫相調査の結果と環境調査,および立地条件をクラスター分析および一般化線形モデルを用いて分析した結果,連続する針葉樹林内においても甲虫群集構造は一様では無く,植生,環境要因,立地条件などの変化によって群集構造が影響を受けていることが示された。特に立地条件については残存する自然植生からの距離が影響していることが示された。この結果は人為的撹乱を受けていない自然植生が糞虫や地表性甲虫の供給源として機能している可能性を示す結果であると推察され,自然植生との接続が確保されることが人工林においても森林性甲虫群集の保全・回復に寄与すると考えられる。また本広葉樹二次林や広葉樹林に隣接した針葉樹林では他の針葉樹林と比較し森林性種の優占度が高く,このような好適な二次的環境の存在が,自然植生のもつ甲虫の供給源としての働きを補完し得ると考えられる。以上の結果より,人工林における森林性甲虫群集の保全・回復には,自然植生のみならず,好適な二次的植生の保全・整備が必要であることが示唆された。


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