| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-370  (Poster presentation)

ニホンジカが林縁と森林性動物に与える影響 ~数理モデルによる解析~
The effect of the sika deer for forest edges and forest animals ~analysis by mathematical model~

*菅野友哉, 谷内茂雄(京都大学)
*Tomoya Kanno, Shigeo Yachi(Kyoto Univ.)

 近年、全国的にニホンジカ(以下シカ)が増加している。シカは多様な植物を多量に採食して生息地の植生を変化させる。そのシカの生息地にとって重要な役割を持つのが、森林とその他の環境との境界線の林縁(edge)であり、林縁長が長い程シカの栄養状態が向上することが知られている。一方、林縁は他の動物にも大きな影響を及ぼす。林縁付近では外部環境の影響が大きくなり、林縁効果(edge effect)が発生する。そのため、林縁の存在により森林性動物は負の影響を受けると考えられる。また、極相の森林では攪乱によるギャップ形成と幼木の成長による遷移により、森林とギャップの比率は一定に保たれていると考えられる。しかしギャップの下層植生をシカが採食すると、次代の森林となる幼木もまた採食され、遷移速度が減速してギャップの割合が大きくなると予想される。そこでシカが植生と景観構造を通して森林性動物に与える影響を予測するために、数理モデルによる解析を行なった。Lotka-Volterra式を基にした数式を使用し、シカ・森林性動物の各個体数、森林・ギャップの面積割合、林縁長、森林・ギャップの各資源量を変数としてこれらの動態を検討した。
 シミュレーションの結果、シカの増加につれて森林・ギャップの各資源量は時間とともに急激に減少し、低密度にまで減少すると、それまで増加していたシカも減少に転じて、最終的には低密度で安定した。シカの採食量の増加とともに、シカの平衡時の個体数は急激に増加し、次いでなだらかに下がる曲線を描いた。また森林性動物が受ける林縁効果が大きい程、森林性動物の平衡個体数は減少した。一方、森林性動物の森林への依存度が大きくなるにつれ、その平衡個体数はシカが低密度時には増加する傾向にあり、シカが高密度時には減少する傾向にあった。発表では結果からシカ・森林性動物の動態が一体何により左右されるかを考察する。


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