| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-386  (Poster presentation)

三陸沿岸のムラサキインコガイの個体群動態に対する東北地方太平洋沖地震の影響
Influence of the Great East Japan Earthquake on population dynamics of intertidal mytilids Septifer virgatus on the Sanriku coast, Japan

*岩渕邦喬(北大・環境), 野田隆史(北海道大学), 仲岡雅裕(北海道大学), 岩崎藍子(琉大・戦略), 金森由妃(中央水研)
*Kunitaka IWABUCHI(GSES, Hokkaido Univ.), Takashi NODA(Hokkaido Univ.), Masahiro NAKAOKA(Hokkaido Univ.), Aiko IWASAKI(Strat Res Prj, Univ Ryukyus), Yuki KANAMORI(NRIFS, FRA)

2011年に発生した東北地方太平洋沖地震が三陸沿岸のムラサキインコガイの個体群動態に与えた影響を明らかにするために、地震前後の本種の帯状分布とアバンダンスの経年変化を明らかにし、次に本種のベッドの動態の駆動機構への地震の影響を検討にするために、1)ベッドの消失率の決定機構への津波の影響、2)ベッドの出現率と消失率の決定機構への沈降の影響、3)地震後におけるベッド出現率と消失率の決定機構とその時間変化、を明らかにした。2002年、三陸沿岸の5海岸の24岩礁に固定調査区を設置し、2011年にその上方に延長調査区を設置した。これらの調査区に縦横5cm間隔で設置した固定定点において固着生物各種の存否を測定するとともに捕食者密度や地形も測定した。取得データから本種の帯状分布およびアバンダンスの経年変化と、各固定定点における本種の出現状態の変化(インコ住み着きとインコ消失の有無)に及ぼす要因を解析した。その結果、東北地方太平洋沖地震は、本種の帯状分布の急激な沈降と4年間にわたるアバンダンスの大幅な減少を引き起こしたことが明らかになった。また、ベッドの動態の駆動機構については、津波によりインコ消失への局所レベルでの正の密度効果が弱まり、沈降によりインコ消失率は上昇し、インコ住み着きへの局所レベルでの正の密度効果が弱まり、インコ消失率への捕食者の影響が低下した。以上の結果は地震に伴う本種の帯状分布およびアバンダンスの変化の一端は、地震によるベッドの動態の駆動機構の変化が関連していることを示唆している。興味深いことにベッドの動態に対するメタ個体群レベルの密度効果は地震後には負から正へと逆転した。これは地震に伴うアバンダンスの大幅な減少により種内競争の緩和とメタ個体群レベルでの産卵量の減少が生じたことを示唆している可能性がある。なお、地震から7年経過した現在、本種の個体群は順調に回復しつつあることが示唆された。


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