| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-387  (Poster presentation)

炭素・窒素安定同位体比分析によるツキノワグマの自然個体と人里出没個体との食性比較
Comparison of feeding habits of Asiatic black bear between natural and nuisance individual by carbon and nitrogen stable isotope ratio analysis

*工藤由香(筑波大), 中下留美子(森林総研), 黒江美紗子(長野県環境保全研), 岸元良輔(信州ツキノワグマ研), 瀧井暁子(信州大学山岳科学研), 泉山茂之(信州大学山岳科学研), 津村義彦(筑波大)
*Yuka KUDO(Univ. Tsukuba), Rumiko Nakashita(FFPRI), Misako Kuroe(Nagano Pref.), Ryosuke Kishimoto(Shinshu Black Bear Res. Group), Akiko Takii(Shinshu Univ.), Shigeyuki Izumiyama(Shinshu Univ.), Yoshihiko Tsumura(Univ. Tsukuba)

近年ツキノワグマ(以下、クマ)の人里出没によって人間との軋轢が増している。クマの人里出没の原因の一つとして、人間の食物にクマが誘引され人里に出没することが考えられている。
人里に出没したクマの食性履歴推定のため、炭素・窒素安定同位体比分析による食性解析が行われている。しかし、長野県では自然個体における同位体比分析研究は進んでいない。そこで本研究では長野県小谷村の山だけで生息している個体(以下、自然個体とする)の安定同位体比の基礎データを作成した。また長野県大町市と塩尻市における人里出没個体の同位体比分析を行い、自然個体の基礎データと比較して、人里出没個体の人間の食物へ依存する個体の検出や、食性履歴推定を行い、人里出没による被害防除・軽減対策の提言を目的として本研究を実施した。
自然個体の同位体比分析には、2011年から2018年に捕獲されたクマ14個体の体毛を用いた。人里出没個体の同位体比分析には、大町市で2005年から2014年に捕獲されたクマ113個体と、塩尻市で2015年から2017年に捕獲されたクマ36個体の体毛を用いた。
自然個体の炭素安定同位体比(以下、δ13C値)は—22.1‰以下、窒素安定同位体比値(以下、δ15N値)は5.2‰以下を示した。
人里出没個体のうち、自然個体のδ13C・δ15N値の最大値—22.1‰・5.2‰より高い個体を人里食物依存個体と設定したところ、大町市では113個体中36個体、塩尻市では36個体中7個体が人里依存個体と検出された。また人里依存個体が人間の食物を利用する時期は、山の実りの多寡と同調する傾向が示された。また依存個体の安定同位体比には地域差が見られた。大町市はδ15N値が高い養殖魚の値に近づき、塩尻市ではδ13C値が高いトウモロコシの値に近づく。よって大町市の依存個体は養殖魚を、塩尻市の依存個体はトウモロコシやトウモロコシが含まれる家畜飼料等を利用していた可能性が高い。両地域でこのような誘引源を排除する環境作りが求められる。


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