| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-410  (Poster presentation)

クワガタムシ―酵母共生系におけるマイカンギア内共生酵母叢の動態
Dynamics of the yeast symbionts in the mycangia of the stag beetles

*山本大智, 土岐和多瑠(名古屋大学大学院)
*Daichi YAMAMOTO, Wataru TOKI(Nagoya Univ.)

木材は主に難消化性の炭素高分子(セルロース、ヘミセルロース、リグニン)で構成され、多くの動物は利用困難である。材食性昆虫の多くは、これらを分解可能な微生物と共生し、材を餌資源として利用する。いくつかの材食性昆虫は、共生微生物を保持、運搬するために特殊化した器官(マイカンギア)を有し、垂直伝播を行う。マイカンギア内の共生/非共生微生物の存在や量は、垂直伝播の成功に大きく関係すると予想されるが、マイカンギア内の微生物の動態を調べた研究はごくわずかにとどまる。
クワガタムシ科昆虫の幼虫は腐朽材を摂食する。多くの種のメス成虫がマイカンギアを有し、コクワガタ(コクワ)を含むいくつかの種からはヘミセルロース構成糖の一種キシロースを分解可能な酵母が見出されている。これらの種では、共生酵母が幼虫による材の消化を助け、メス成虫はマイカンギアを用いて共生酵母を垂直伝播すると考えられる。共生酵母がクワガタムシ幼虫の成長に必須な場合、酵母の確実な垂直伝播は必須であるため、繁殖時期の個体のマイカンギア内には共生酵母のみが大量に存在する可能性がある。一方、未成熟個体や繁殖期を過ぎた個体の場合、マイカンギア内には共生酵母が少量、あるいは非共生菌も混在する可能性がある。
本研究は、コクワとネブトクワガタ(ネブト)を対象に、個体の成熟の程度とマイカンギア内の酵母叢の関係を明らかにするため、愛知県名古屋市の二次林でメス成虫を採集し、マイカンギアより酵母を分離、同定した。その結果、コクワはほとんどの個体がキシロース資化性酵母のみを有し、その量は成熟個体で多くなる傾向を示した。一方、ネブトでは特定の酵母は見られず、酵母を持たない場合もあった。これらのことから、ネブトは酵母への依存性が低いこと、依存性の高いコクワでは、個体の成熟に伴って酵母の量が増大し、垂直伝播の確実性を高めていることが示唆された。


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