| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-434  (Poster presentation)

放棄モウソウチク林の窒素利用様式に斜面位置の違いが及ぼす影響
Effects of slope position on nitrogen use pattern in an abandoned Moso bamboo (Phyllostachys pubescens) forest

*下野皓平, 片山歩美, 榎木勉, 田代直明, 智和正明, 大槻恭一, 菱拓雄(九州大学)
*Kohei Shimono, Ayumi Katayama, Tsutomu Enoki, Naoaki Tashiro, Masaaki Chiwa, Kyoichi Otsuki, Takuo Hishi(Kyushu Univ.)

 近年、里山を中心に管理放棄された竹林の拡大が問題となっている。森林生態系では斜面上部で土壌の窒素(N)可給性が低く、植生は効率的なN利用を行うことが報告されている。竹林は森林に比べて高いN吸収量を持ち、効率的なN利用を行うことから、斜面に沿って森林とは異なるN利用様式を示すことが考えられる。本研究では、斜面中腹部に生育する放棄モウソウチク林を対象に、植生バイオマスとN蓄積量、一年間の純一次生産量(NPP)およびN吸収量を推定し、斜面に沿ったモウソウチク林のN利用様式を評価した。
 モウソウチク林の植生バイオマスとN蓄積量は斜面下部で大きかったが、NPPとN吸収量は斜面位置で変わらなかった。モウソウチク林のN利用様式について、N利用効率(リターN濃度の逆数)は斜面下部で大きかった。さらに林分当たりのN利用効率(N吸収量/NPP)は斜面に沿った傾向を示さなかったが、斜面下部ではN当たりの生産性(NPP/N蓄積量)が小さく、平均N滞留時間(N蓄積量/N吸収量)が大きかったことから、モウソウチク林は斜面下部で効率的なN利用を行っていることが明らかになった。また、土壌の全N濃度や無機態N生成速度は斜面下部で小さかった。これらの結果は、森林とは逆にモウソウチク林では斜面下部で系全体のNが不足し、斜面上部では系全体のNが余っていることを示している。
 土壌含水率は斜面上部で小さく、植生バイオマスと弱い負の相関を示した。モウソウチク林が持つ高いN吸収量と効率的なN利用は土壌のN可給性を低下させることが知られるが、水が多く生育が活発な斜面下部ではこの性質が顕著となり、系全体のN不足を引き起こしている可能性がある。一方で、斜面上部では水不足により植生バイオマスが小さいため、斜面下部に比べてN吸収量によりモウソウチク林の生育に必要なNを十分に満たすことが出きるため、系全体にNが余っている可能性がある。


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