| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-475 (Poster presentation)
遺伝的多様性の減少は、生息地の分断などにより個体群が縮小し、近親交配率が高まることによって生じる。その結果、環境の変化への適応能力や免疫機能の低下、有害遺伝子の顕在化・蓄積の引き金となると考えられているが、実証的研究は極めて少ない。
シナイモツゴPseudorasbora pumilaは、絶滅危惧IA類に指定される小型コイ科魚類である。近年、長野県の生息地において吸虫類クリノストマムClinostomum complanatumの被濃厚感染個体が多数発見された。本寄生虫の病害性は低いが、大量寄生すると宿主を死に至らしめることが知られている。本研究では、濃厚感染の原因解明の一環として、感染率の時空間的追跡調査、ならびに脊椎動物の免疫応答に重要な役割を持つ主要組織適合遺伝子複合体(MHC)class IIβ遺伝子の塩基配列解析を行った。
調査は7個体群を対象に2003年から2015年に行った。感染率は現地での肉眼による観察、および、魚体のデジタル写真を用いた観察により推定した。また、同所的に生息する淡水魚の感染率も調査した。シナイモツゴ合計350個体、近縁種モツゴP. parva 12個体を用いてMHC class IIβ遺伝子のexon2 (277 bp)の塩基配列を推定した。
その結果、シナイモツゴ個体群の感染率は平均13.2 %(N = 912)であり、2個体群において感染率の増加が認められた。同所的に生息するマドジョウやヨシノボリ類に感染は認められなかった(N = 64)。シナイモツゴの感染率とMHC遺伝子のアリル多様度Arやヘテロ接合度Heとの間に相関はなかったが、平均Arは3.10であり、モツゴや他魚種の報告例と比較して極めて低かった。また、シナイモツゴの平均Heは0.65であり、モツゴの1.00と比較して低かった。以上の結果からMHC遺伝子の多様性の喪失はシナイモツゴへの寄生虫感染の拡大や濃厚感染個体の増加を促した可能性が示唆された。