| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-488  (Poster presentation)

人と登山する種子:靴を介した高山域への種子持ち込み実態と持ち込む人の特性・心理
Hiking seeds: frequency of seed introduction to an alpine area via footwear with different demographic attributes and psychology of seed carriers

*西澤文華(農工大院), 久保雄広(国立環境研究所), 小山明日香(森林総合研究所), 赤坂宗光(農工大院)
*Fumika Nishizawa(TUAT), Takahiro Kubo(NIES), Asuka Koyama(FFPRI), Munemitsu Akasaka(TUAT)

自然地域においては、訪問者の衣服や靴を介して、域内に生息していない植物の種子が非意図的に導入されている。これらは在来生態系の改変など生態系に負の影響を与えるため、喫緊の対策が求められる。非意図的な種子導入の抑止を低負担で実現するには、導入の当事者である訪問者が知識を得て、問題意識を持ち、抑止行動を行うという心理・行動プロセスを経ることが有効である。この実現には、関わる心理・行動プロセスの理解が不可欠だが、具体的な検討は殆どなされていない。本研究では、訪問者の知識を形成した情報源-知識の程度-問題意識-抑止行動 (靴の洗浄)-実際の導入種子数の各要素間の関連性の検証を行った。検証の為、高山域の入り口となる中部山岳国立公園・立山駅構内において、訪問者の靴に付着した土の採集及びアンケート調査を行った。採取した土は撒き出し実験に供し、発芽数を記録した。結果、知識形成に最も寄与したのはテレビで、知識のある訪問者は高い問題意識を持つ傾向にあったものの、高い問題意識は必ずしも対策行動を促進するものでないことが分かった。さらに対策行動として靴の洗浄を行ったと回答した訪問者は、採取した土からの発芽種子数が行ったと回答していない人より有意に少なかった。また、調査対象者384名中29名(7.5%)から低地性雑草を含む6種76個体の発芽が確認された。以上より、非意図的な種子導入を抑止するための訪問者への知識提供は当事者意識を生みにくい媒体を通して行っても効果が低い可能性が示唆された。生物多様性や生態系保全にむけて、問題意識と実際の行動が連結していない可能性を念頭に、両者を繋ぐ方策が今後求められる。


日本生態学会