| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-041  (Poster presentation)

性淘汰が維持する生物多様性-身勝手な競争が集団サイズを安定化させる- 【B】
Sexual selection sustains biodiversity via producing negative density-dependent population growth 【B】

*Kazuya KOBAYASHI(Kyoto Univ. FSERC)

生物多様性の形成・維持メカニズム解明は、古くから生態学の重要課題として認識され議論されており、様々な研究が行われてきたが、未だに生物群集の安定性をもたらすメカニズムは良く分かっていない。多様で複雑な生物群集を安定して維持する要因として、構成種の増殖率が自身の個体数増加によって強く抑制されること(増殖率に対する負の密度依存性効果)が挙げられる。すなわち、十分に強い負の密度効果が存在すれば、どんなに複雑な群集であっても安定することが期待できる。これまで負の密度効果をもたらす要因として種内の資源競争が想定されており、この視点はニッチを共有しながら共存している種間では種内競争が種間競争よりも強く、ニッチ分化が多種共存に重要とするガウゼの競争排除則と密接な関係にあるだろう。
今回の発表では、従来の資源競争に基づく種内競争だけでなく、交尾を巡る競争、すなわち性淘汰が負の密度効果をもたらすことを示す。性淘汰は、高密度で交尾を巡る競争が激しい状況では、交配相手の産仔数や種子数を減らしてでも受精成功率を高める形質の進化を促すだろう。一方で、低密度で交尾を巡る競争相手が存在しない状況では、そのような交尾相手を害する行動は退化するだろう。結果として、個体数が多い種では性淘汰が強く働いて、個体数の増えすぎを防ぎ、逆に個体数が少ない種では性淘汰が弱まるため個体数が増えやすくなりやすいことが予想される。この状況をゲーム理論で解析したところ、確かに性淘汰によって強い負の密度効果がもたらされることが示され、このメカニズムを組み込んだシミュレーションは十分に広い空間があれば数百種類の植物が10,000 世代にわたって共存できることを示した。これらの結果は、資源競争だけでなく性淘汰もまた負の密度効果をもたらし、生物多様性維持に貢献している可能性を示唆している。


日本生態学会