| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-043  (Poster presentation)

静岡県富士市内の自然再生地「あさひ・いのちの森」の10年間の植生発達
Development of 10 years of ecotope "Asahi-inochino-mori" in Fuji City, Shizuoka Prefecture

*村上雄秀(国際生態学センター), 林寿則(国際生態学センター), 武藤一巳(旭化成ホームズ(株))
*Yuhide MURAKAMI(IGES-JISE), Hisanori Hayashi(IGES-JISE), Kazumi Mutou(Asahikasei Homes Co.)

静岡県富士市田子の浦の1haの自然再生地「あさひ・いのちの森」は2007年に創出された.4mの起伏を持ち,4つの尾根と谷,流れ,3つの池,水田,湿地などから構成される.森林は自然林をモデルとした照葉樹林の再生区と,里山林などをモデルとした夏緑広葉樹林の再生区からなる.植栽後10年間,植栽苗の毎木調査や定置枠の植生調査,植物相や昆虫相の調査が定期的に実施されてきた.本報告はこの自然再生地の10年間の発達を明らかにするため,森林再生区の種組成的遷移,全域に再生した植生類型,森林再生地のモデルとなった近隣の自然林との種組成比較の結果について報告する.混植・密植法により植栽された森林再生区の4定置枠では植生高の生長量は年平均0.9mで,2017年で約10mに達した.樹高は経過年に比例した線形の生長を示した.森林再生区の種組成動態は2再生区間の差が少なく,新入種は1年生畑雑草(第1期) → 陽地生多年草(第2期) → 森林生木本植物(第3期)と推移した.第3期には4.5年で到達し,新入種は自然林再生区で平均6.5種,里山林再生区で平均19.5種に達した.2017年時点の新入種比率は自然林では平均30%だが里山林では平均63%となり,現在の里山林の構成種は新入種が大半を占めた.周辺の自然林と再生区の森林との種組成比較では,里山林,自然林共にそのモデルとなった森林と組成的な類縁性があった.ナガバジャノヒゲ,ベニシダなどの林床生の草本植物は再生地では欠いたが,その要因は近隣に種子供給源が存在しない(服部ほか,2000)点と推定した.再生地全域では21植生単位の生育を認めたが,自然成立した15の中で移植された浮島ヶ原の土壌が成因である2群集3群落の湿性草原が特徴的であった.一方,水田管理に伴うナヨナヨワスレナグサ群落の発達や,スソ群落であるケチヂミザサ群落やヤブジラミ群落は本再生地に特有であった.


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