| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-154  (Poster presentation)

環境-生長特性に基づいた湿生蘚苔類培養システム
Cultivation system for hygrophytic bryophytes based on environment-growth characteristics

*清水英幸(国立環境研究所), 須田隆一(広島大学, 福岡県保健環境研究所), 岩月善之助(広島大学, 服部植物研究所), 戸塚績(国立環境研究所, アジア大気汚染研究セ)
*Hideyuki SHIMIZU(NIES), Ryuichi SUDA(Hiroshima Univ., Fukuoka Inst. Health Env. Sci.), Zennosuke Iwatsuki(Hiroshima Univ., Hattori Botanical Laboratory), Tsumugu Totsuka(NIES, ACAP)

蘚苔類を植物計として利用するには、一定の条件下で育成した試料を安定的に供給する必要がある。しかし、環境と生長に関する蘚苔類の生理生態学的研究は限られており、蘚苔類の実験植物化に係る研究は少ない。ツルチョウチンゴケ(Plagiomnium)属は比較的大きな茎葉を有し、環境の影響を計測し易い。そこで、様々な環境要因に対する本属蘚苔類の生長特性を計測し、培養に適した条件を明らかにし、湿生蘚苔類培養システムの構築について検討した。
野外で採集した茎葉体を十分に洗浄後、次亜塩素酸系漂白剤で簡易殺菌し、RO水を用いて前培養した。伸長した茎葉体部分を10%クノップ液に浸し、15℃以下の条件で培養した。培養中に新たに伸長したシュートを先端から15~20mm切り取り、12時間明期/12時間暗期、80μmol m-2 sec-1、20˚C、100%RH、pH7を基本条件として、各環境要因に対する生長を計測した。その結果、Plagiomnium属の植物は、10~140μmol m-2 sec-1、10~25˚C、100%RH以上、pH6~8で、良好な生長を示した。
国立環境研究所の本構内実験圃場ガラス温室内に湿生蘚苔類培養システムを仮構築し、地下水の流量、貯水量、水位などを調節して環境条件と蘚苔類の生長について検討した。また、巻貝、エビ類、魚類を導入した疑似生態系による藻類混入の緩和について検討した。
本培養システムでは、光量子束密度:15~200μmol m-2 sec-1、水温:16~22˚C、気温:18~27˚C、相対湿度:70~100%、pH:7.0~7.7、電気伝導度:150~190μs cm-1に、通年維持できた。また、貝類は付着性珪藻を、魚類は浮遊性緑藻を摂食しており、3種を加えた疑似生態系で藻類の繁殖が最も抑制された。これらの動物種は本疑似生態系で世代交代した。なお、地下水の流入量は多く、貯水量は少なく、植物体が浸る程度の水位で蘚苔類の生長が良好であった。30年以上経過しても、P. maximovicziiP. vesicatumの生育は良好で、実験材料として通年供給が可能となっている。


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