| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-170 (Poster presentation)
内部共生において, 共生関係の偏性化に伴い共生細菌ゲノムは普遍的に大規模な縮小進化を経験する. 共生細菌における縮小ゲノム進化を説明する仮説は, 1)集団構造の変化に由来する遺伝的浮動の不可逆的な蓄積, 2)突然変異率の増加, 3)細胞内環境への適応による選択圧の緩和, の3つに大別される. これらの進化駆動原理を識別する際には主に, ゲノム間で比較可能な全ての遺伝子について、作用する純化選択圧並びにその分布を系統間で比較することにより, どちらがより支配的であるかを推定するのが一般的である. しかしながら, これらの推論過程にいくつかの問題がある. 例えば, 比較する相同遺伝子間に働く選択圧の指標として広く用いられている同義置換率(dS)と非同義置換率(dN)の比(dN/dS)は分岐時間に強く依存することが知られているが, これまで偏性細胞内共生細菌のゲノム進化に関する理論研究においてそのような性質はほとんど考慮されていない. 本研究ではそれらの諸問題点をふまえた上で新たに広範なデータセットから各種パラメータを推定し, 細菌種間ならびに種内で比較することで既存の仮説の妥当性について検証した. その結果, 共生細菌と近縁の自由生活性細菌におけるdN/dS値の比較からは, 遺伝的浮動による弱有害変異蓄積の仮説を支持する証拠は検出されないことが明らかになった. また, 共生細菌種間で選択圧の推定値が異なる可能性があること, ならびに共生細菌ゲノム内で遺伝子欠損に対する選択圧緩和に偏りがあることが示唆された. さらに, 全体的な傾向として, 共生細菌のゲノムサイズは系統樹の枝長として推定される総置換数に対する冪乗則に従って減少する傾向が見られたが, 個々の種内における傾向は必ずしも全体の傾向には従わないことが明らかとなった.