| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-172 (Poster presentation)
ベイツ型擬態とは、特別な防御を持たない種が、同地域に生息するモデル種(警告色を持ち、毒等で防御している種)と似た体色を示す現象をさす。ベイツ型擬態は捕食回避のための適応としてよく知られている。擬態には利益があるにも関わらず、ベイツ型擬態種の中には一部のメスしか擬態しない種が存在するが、そのメカニズムは未検証である。本研究では、琉球列島において擬態多型を示すシロオビアゲハとそのモデル種であるベニモンアゲハを用い、擬態型の数がモデル種の数により制限されることで擬態多型が進化・維持されるという負の頻度依存選択に基づいた仮説を検証するとともに、擬態多型が共通祖先や距離による隔離の影響を受けているか検討した。予測通り、野外調査の結果、各島におけるシロオビアゲハ集団中の擬態型の数(擬態率)は、ベニモンアゲハの数とともに多くなった一方で、各島間の地理的な位置関係とは無関係だった。mtDNAの部分配列に基づく分子系統解析の結果、南方の集団が遺伝的多様性の中心であり、北方の集団は比較的近年の移住により生じたことが示された。この傾向は、集団遺伝学的解析(ミスマッチディスチリビューション解析および Tajima’s D 解析)によっても確認された。一方、各島におけるシロオビアゲハの集団形成の歴史と擬態率の間に関連性は見られなかった。さらに、シロオビアゲハの擬態率は、集団間の遺伝的距離(DA)・地理的距離・気象環境の違いと無関係であることがMantel testおよびpartial Mantel testにより確認された。総合すると、琉球列島の島々におけるシロオビアゲハの擬態率変異は集団遺伝構造ではなく島に生息するモデル種の数によってうまく説明できた。これは、シロオビアゲハの擬態多型が天敵による捕食圧によって維持されてきたことを示唆する。