| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-173 (Poster presentation)
植物にとっての開花期は、個体の繁殖成功度に直接的な影響を与える形質である。そのため、近縁な集団であっても、局所環境に応じて異なる時期に開花するように選択が働き、地域内で集団間変異が見られることがある。このような場合、適応形質である開花期が副次的に集団を隔離する役割も果たすことで、生態的種分化の原動力となりうる。
キク科アキノキリンソウは北海道の平地では8-9月に開花するのが一般的である。ところが、特殊土壌を育む蛇紋岩地帯には6-7月に開花する集団が存在する。オープンハビタットの蛇紋岩地では盛夏に旱魃が起こりやすいため、初夏に開花する性質が蛇紋岩地で有利となり選択されたと考えられている。一方、高山地帯でも7月中から開花する早咲き集団が生育するが、こちらは高山での短い生育期間のうちに繁殖を終えるために早期開花性が選択されていると考えられる。また、蛇紋岩型と高山型を京都市内の共通圃場で栽培すると、ともに通常の遅咲き型に先駆けて5月に開花することから、早期開花性には遺伝的基盤と温度依存性が存在することが分かっている。
こうした早咲きのアキノキリンソウ集団は、集団遺伝解析により道内で複数回にわたり平行進化していること、そして蛇紋岩地の早咲き集団が遺伝的にも隔離されていることが示されている。そのため、開花期変異をもたらした遺伝的要因を解明することにより、本群で平行的に起きている生態的種分化の過程を復元することに貢献できると考えられた。そのためには、高山と蛇紋岩地において独立した変異で早期開花性が獲得されたのか、もしくは共通の遺伝的変異が祖先多型や遺伝子流動によって共有されているのかを明らかにする必要がある。そこで本研究では、アキノキリンソウのドラフトゲノムの新規作成と集団リシークエンスを行うことで、対照的な環境で平行選択されている早期開花性の進化的背景を探索することを目的とした。