| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-174  (Poster presentation)

ヤスデ類における警告色のミュラー型擬態
Müllerian mimicry of aposematic coloration in millipedes

*田辺力(熊本大学), 本間淳(琉球大学), 持田浩治(慶應大学), 曽田貞滋(京都大学), Paul E. Marek(Virginia Tech), 松井久実(麻布大学), 桑原保正(和泉市)
*Tsutomu TANABE(Kumamoto Univ.), Atsushi Honma(Univ. of the Ryukyus), Koji Mochida(Keio Univ.), Teiji Sota(Kyoto Univ.), Paul E. Marek(Virginia Tech), Kumi Matsui(Azabu Univ.), Yasumasa Kuwahara(Izumi City)

有毒物質を持つ被食者同士が互いに似た警告色を持つことで捕食を逃れるミュラー型擬態は昔から注目され、多くの事例が報告されてきたが、その成立条件が明らかにされた例は稀である。ミドリババヤスデ種複合体とアマビコヤスデ属は、お互いの分布が重なる本州から九州にかけて、共に似た灰色の体色を呈する。これらヤスデ類は、青酸系防御液を分泌し、また、演者らの研究によって、(1)ヤスデ型クレイモデルを用いた野外実験から、日中のヤスデ類の捕食者としては鳥が重要と考えられること、及び(2)JND解析から、ヤスデの灰色は鳥に対して林内で背景となる落ち葉に対して目立つと推定された。これらのことから、この灰色への収斂は鳥の捕食に対するミュラー型擬態環の例と考えられる。一方で演者らは、ミドリババヤスデ種複合体の系統関係を推定した以前の研究に基づき、ミドリババヤスデ種複合体のいくつかの系列は灰色擬態環から非擬態環型のオレンジ(祖先状態)もしくは灰色とオレンジの中間色へと移行し、さらに、オレンジに移行した種の一部は近縁のオレンジ種と新たにオレンジ擬態環を形成した可能性があることを見いだした(オレンジと中間色のヤスデも鳥に対して背景から目立つことが明らかとなっている)。このような、ある擬態環から非擬態環型の警告色もしくは別の擬態環への移行といった進化パターンは過去に報告がない。演者らは、この特異な進化の要因として、ハエ類の捕食寄生と鳥類の捕食の関係に注目している。近縁のオレンジ種が生息する東海〜関西地方で行ったミドリババヤスデ種複合体での野外調査によると、ハエの寄生は灰色のヤスデ種に偏っていた。よって、ハエは灰色のヤスデに選択的に寄生しており、ヤスデの灰色擬態環からの非擬態環型オレンジもしくはオレンジ擬態環への移行に影響を与えていることが示唆された。鳥の捕食への灰色擬態環のメリットについては、灰色とオレンジのヤスデ型クレイモデルを用いた野外実験データを解析中である。


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