| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-175  (Poster presentation)

極東ロシアー日本列島におけるキスゲ属植物の遺伝的集団構造解析
Population structure of Hemerocallis in Russian Far East and Japan

*廣田峻(東北大・農), Pavel KRESTOV(Botanical Garden-Inst. FEB RAS), Irina KRESTOVA(Botanical Garden-Inst. FEB RAS), Kuchina VALENTINA(Botanical Garden-Inst. FEB RAS), 新田梢(東大・総合文化), 安元暁子(チューリッヒ大), 中村剛(北大・FSC・植物園), 矢原徹一(九州大・理), 陶山佳久(東北大・農)
*Shun K HIROTA(Tohoku Univ.), Pavel KRESTOV(Botanical Garden-Inst. FEB RAS), Irina KRESTOVA(Botanical Garden-Inst. FEB RAS), Kuchina VALENTINA(Botanical Garden-Inst. FEB RAS), Kozue NITTA(Tokyo Univ.), Akiko A YASUMOTO(Univ. of Zurich), Koh NAKAMURA(Hokkaido Univ.), Tetsukazu YAHARA(Kyushu Univ.), Yoshihisa SUYAMA(Tohoku Univ.)

東アジアで多様化したキスゲ属(Hemerocallis)はキスゲ節、ゼンテイカ節、カンゾウ節に分類され、それぞれ夕方開花し翌朝閉じる夜咲性、朝開花し翌朝閉じる昼咲性一日花、朝開花し夕方閉じる昼咲性半日花の開花形質を示す。ただし、夜咲性のキスゲ節には、一日花のマンシュウキスゲ H. lilioasphodelus とホソバキスゲ H. minor、半日花のキスゲ H. citrina が含まれる。葉緑体ゲノムマーカーを用いた系統解析では、これらの開花形質や種が多系統を示すことから、開花形質の平行進化が示唆されていた。一方で、キスゲ属では容易に種間交雑が生じ、野外雑種集団の存在も報告されていることから、交雑により開花形質の獲得が生じ、いわば「みかけ上の平行進化」が起きた可能性を否定できない。この問題を解決するためには、核ゲノムマーカーを用いた系統関係の検証が必要である。そこで本研究では、日本及び極東ロシアから採集した、雑種集団を含む8種133集団1079個体を対象に、MIG-seq法を用いたゲノムワイドSNP解析を行った。分子系統解析の結果、各節の単系統性が支持され、さらにゼンテイカ節では日本のゼンテイカ H. esculenta と大陸のオオゼンテイカ H. middendorffii との間での明瞭な分化が検出された。一方、同所的に生育し同じ夜咲性一日花のマンシュウキスゲとホソバキスゲには分化が見られなかった。ADMIXTUREによる集団構造解析でも節間で明瞭な分化が検出されたことに加え、極東ロシアや北海道ではキスゲ節とゼンテイカ節の間で頻繁に交雑が生じている可能性が示唆された。これらの結果から、キスゲ属において、各開花形質は1回起源であり、種間交雑による遺伝子浸透が核ゲノムと葉緑体ゲノム系統樹の不一致をもたらしたと考えられた。


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