| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-177 (Poster presentation)
訪花昆虫へのアピールや食植者からの防御機能として働く花色は、その適応的な形質から集団単位で単一化することが知られている。そのため、集団内で異なる花色が維持されている場合、多型を維持するメカニズムに関心が集まってきた。理論的には集団内の少数派が有利となる負の頻度依存選択が働くことで多型が維持され続けると推測されているものの、実証例は非常に少ない。また近年では、ある花色が食害者と送粉者の両方に好まれることで適応度が均一になる、拮抗的自然選択が維持機構に関わっているのではないかとも考えられているが実証例は少ない。ミスミソウの花には、送粉と花器官の食害の両方を行う甲虫類が訪花することが知られており、拮抗的自然選択が働いている可能性も考えられる。本研究では、集団内に3タイプの花色多型を維持するミスミソウを用いて、負の頻度依存選択と、拮抗的自然選択がミスミソウの花色多型に働いているかどうかを検証することを目的とした。佐渡島のミスミソウ17集団計623個体を対象に、集団内の花色頻度を始めとする7項目を計測し、一般化線形混合モデルを用いて繁殖成功度との関連を調べた。結果、集団内の花色頻度と繁殖成功度の間には有意な関係性は検出されなかった。一方、食害を受けた花の花被片面積と繁殖成功度の間には正の相関があり、また被食害個体の割合が白花で顕著に高かったことから、拮抗的自然選択が働いている可能性が示された。本研究の結果から、ミスミソウの3タイプの花色多型には、甲虫類による送粉と食害の拮抗的な自然選択が働いている可能性が示された。この選択圧は特に白花の適応度を抑えるため、フィードバック効果によって白色に単型化するのを防いでいると推測される。ミスミソウにおいては、このような拮抗的な働きをもつ甲虫類の訪花数の年変動や、集団間の遺伝子流動などが加わることで、花色多型が維持されているのではないかと推測される。