| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-179 (Poster presentation)
タンガニイカ湖のシクリッド科魚類は適応放散の一例として有名で、生態や形態が多様な200種以上の固有種が生息しているが、なぜこれほどまで多様に分化したのかは疑問である。本研究では、類似したニッチを持つにも関わらず、比較的狭い範囲の岩場で複数種が共存している藻食魚に注目し、また、これら藻食シクリッドは、湖にパッチ状にある岩礁域に生息しているが、シクリッド類は口内保育や基質産卵を行い分散力が乏しく、岩礁域間で遺伝的交流が妨げられている。そのため、岩礁域ごとに種組成が異なり、また同種においても岩礁域間で生息場所や機能形態がばらつくことが報告されている。そこで、本研究では、タンガニイカ湖南端の3地点を調査地とし、出現する藻食魚種すべてを対象として、魚体輪郭と頭顎形態を幾何学的形態計測法を用いて分析した。対象とした藻食性シクリッドは、摂餌様式により4つの生態型(梳き取り、摘み取り、吸い込み、削り取り)に分けられ、また分子系統解析により6つのクレードからなることが知られる。
梳き取り藻食者、摘み取り藻食者ともに、魚体輪郭および頭顎形態において、種間の差異が大きかった。また種内でも地域間で頭顎形態が異なる種が見られた。地域による形質の差異は、遺伝的な基盤を持つ局所適応によるものか、可塑的なものか不明であるが、タンガニイカ湖のシクリッド科魚類ではこのような種内の形質にみられる地域的な多様性が次々に報告されており、さらにその一部は遺伝的な変異との関係が明らかにされつつある。本研究においても、DNA標本を今後解析することで、地域間で異なる選択による局所適応がタンガニイカ湖のシクリッド化の多様性を産む原動力となっていることが示せるかもしれない。