| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-180 (Poster presentation)
繁殖における雌雄間の利害の対立である性的対立は、雌雄の性的二型形質に急速な拮抗的共進化や、種分化をもたらすと考えられてきた。急速な進化が起こり得るのであれば、生物種内で性的二型形質に小進化がみられるはずである。しかし、種内の性的対立に関わる性的二型形質の小進化の知見は少ない。メススジゲンゴロウ(Acilius japonicus)では、交尾時の雄の長時間のマウンティングが雌の水面での呼吸を妨げ、雌にデメリットをもたらすと示唆されている。このことから、雌には雄から逃れるための背面の毛が、雄には雌を掴むための前・中脚の吸盤が進化したと考えられている。しかし、これらの性的二型形質と交尾行動の関係は調べられてこなかった。本研究の目的は、メススジゲンゴロウの性的二型形質の進化パターンを解明することである。これまで調べられてこなかった交尾行動と性的二型形質の関係を明らかにし、集団間で性的二型形質の進化がみられるかを調べる。
集団間の系統関係を明らかにするために、COI遺伝子領域805bpとCAD遺伝子領域598bpを基に系統解析を行った。その結果、北海道と本州の2つの集団が、それぞれ単系統にまとまった。性的二型形質が交尾行動にどのように影響するかを調べるために、交尾行動と形態の関係を調べた。その結果、雄の最も大きな吸盤の直径が長いほど、交尾が成功しやすいことが分かった。また、雌の前胸背の毛の数が多いほど、交尾時間が短くなることが分かった。交尾行動に関係すると示唆された雌の前胸背の毛の数と、雄の大きな吸盤の直径が北海道と本州の集団間で異なるかを調べた。その結果、北海道集団の雌の前胸背の毛の数は、本州集団に比べて多かった。また、集団間で雄の形態に差はみられなかった。以上のことから北海道では、雄の長時間のマウンティングに対して、雌の抵抗が強まる方向に進化が起きたと考えられる。