| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-190 (Poster presentation)
自然科学の情報発信は、普及啓蒙型からオープンサイエンスといった市民協働型へと方法を変えつつある。しかしこの協働において、学術用語を排除したとしても、例えば「生態系」といった概念の使用を避けることができない。市民にどのような方法で学術的な概念を理解してもらうのかということも、オープンなコミュニティ上でサイエンスを進める上での課題と指摘できる。一つの方法として学術的な概念が、そもそも日本でどのように受容されたかを分析することが挙げられる。この背景の元、最も一般に膾炙している「環境」という学術用語についての用語史と包含する概念の変遷を、生態学に限らず分野横断的に調査した。まず生物学における概念の不連続性をもたらした、ダーウィン『種の起源』における訳語の推移を、明治大正期における翻訳文献から調査し考察した。その結果、原著にenvironmentという用語が使用されていないことと併せて、翻訳中では「環境」あるいはそれに相当する学術用語(「環象」など)は使用されていなかった(近年の翻訳では「環境」が使用される)が、「環境」概念自体は、ダーウィンの原著にまで遡ることができることを指摘した。次に博物学-生物学、地理学、教育学-心理学、社会学、芸術の分野での「環境」に相当する用語の使用状況を追跡した。その結果、各分野において欧米の文献を翻訳する過程で、「環境」概念が取り込まれてきたが、該当する用語とその変遷は多様であった。確定的ではないが、人文分野での「環境」概念の方が早期に広まっていったことを示唆した。環境という語自体は漢籍にまで遡れるが、「環境」概念が必要としていた学術用語として、うまく当てはまるように「環境」が発明された。