| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-192 (Poster presentation)
生物学関連を修学する大学生に対して,実験実習で生物スケッチを課すことが多いが,学生の多くは絵を描くことを苦手とし,興味を示さず,嫌悪することすらある。一方で生物を観察し,形態的特徴から生物群や種を同定することは,生物学においては基本であり,その際に生物スケッチを描いて認識するということは必須の作業ともいえるため,指導手法の開発は重要である。「キミ子方式」は松本キミ子により子供から大人まで誰でも楽しく絵が描ける方法として,1975年に提唱された実物を観察して描く具象水彩画である。最初に下書きをせず構図を取らず部分から全体へ描く,絵の具の3原色と白色を混色して全ての色を作る,モデルにより描く順序が決められている,などが特徴である。またそれを応用したペン画手法も開発されている。演者は学生実験(海洋動物学実験)の一部として,キミ子方式によるペンを用いた生物スケッチを指導した。スケッチの対象はカイアシ類,カメノテ,オオグソクムシなどの節足動物,ヒザラガイ,サルボウ,ヒラサザエ,スルメイカなどの軟体動物だった。描く順番はあらかじめ演者が検討をし,実験のはじめに指導をした。頭頂部あるいは胎殻,蓋の中心を描き初めとし,成長の順に描いていった。固定または冷凍標本を一人1個体ずつ用意した。描画には0.3mm以下のペン先のゲルボールペンとA4ケント紙を用いた。2013年から2018年までに,毎年2から8種類の生物についてスケッチを指導した。生物種を変えてスケッチを繰り返すことにより上達がみられた。この手法を用いることにより,大部分の学生がスケッチについて,「楽しかった」あるいは「とても楽しかった」と評価し,これまでスケッチに苦手意識を持っている学生にも歓迎され,生物に親しみが持てるようになった。また,下書きを描かないことでモデルに対する緊張感が生まれ,よく観察するようになる効果がみられた。