| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-199 (Poster presentation)
日本の農山村では人口減少と高齢化の影響が顕著であり、地域社会の存続可能性も懸念されている。それは生物多様性の第2の危機にもつながっている。背景にあるのは、地域の生物資源を利用する生業が衰退し、海外からの資源利用が増え、地域の自然と生活が切り離されたことである。この根本原因の点で、日本の農山村の課題は、世界的な生物文化多様性の保全・再生の議論や実践に重なる。すなわち、市場経済のグローバル化が世界的に生物多様性と地域文化のつながりを分断し、それが地域社会のレジリエンスや自律性を損なってきたとされる点である。したがって日本の農山村の地域デザインのあり方を生物文化多様性の保全・再生に関連づけることが意味をもつ。
日本の農山村の地域づくりで近年注目されている動きに、都市住民の「田園回帰」志向の高まり、移住者と関係人口、および外国人などの旅行者の増加と、これらの受け入れのための条件整備がある。これらはいずれも地域社会を外部に開く動きである。これ自体は望ましいことであるが、結果として地域の自然や文化が損なわれることになれば、地域の魅力そのものが減じることになる。日本の地域社会がもつ文化の独自性は、近年の外国人旅行者の増加などを契機に、あらためて住民によっても再認識されつつある。しかし日本の生物多様性の固有性の高さや、それらと地域文化とのつながりは、まだ知識資源として十分に共有されているとはいいがたい。この領域には生態学的な立場から参画する余地がある。
一方で地域の「在来知」自体も危機的な状況にあることを踏まえれば、地域社会との協働のあり方にも配慮が望まれる。世界的な生物文化多様性の取り組みでは、地域と外部、世代間、多様なステークホルダー間などさまざまな主体間でのつながりのあり方が共通の課題となっている。それらの経験に学びつつ、創造的な交流の場を地域にいかに築くかがポイントであろう。