| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-216  (Poster presentation)

国産天然の山菜・薬草の利用供給バランスは資源量と利用習慣に左右される
Resource amount and cultural legacy affect spatially unbalanced human use of Japan's non-timber forest products

*小出大, 角谷拓(国立環境研究所)
*Dai KOIDE, Taku Kadoya(NIES)

自然生態系からの供給サービスは、基礎的な生態系サービスであり、資源となる生物の量とその利用採集のバランスを取ることは、持続可能な利用の観点から欠かせない。そこで本研究は、天然物の山菜10種と薬草3種を対象として、人為的な利用量と生態系からの供給可能量を比較し、両者の空間的なミスマッチを解析することによって、日本の山菜・薬草資源における利用と供給のバランスを評価することを試みた。実際に採集されて市場に販売された対象種の利用量は、特用林産物生産統計調査を基に算出した。また対象種の潜在的な供給量は、この利用量と種分布モデルによる分布予測結果(MAPHATJP)を用いて推定した。解析の結果、多くの都道府県では実際の山菜や薬草の利用量に比べて潜在的供給量が相対的に大きいことが明らかになった。特に森林の面積が大きい県でこの傾向は顕著であり、そうした県では森林を生息地とする山菜や薬草の資源は豊富と考えられるが、奥山へのアクセスが困難であることや、近年の里山放棄によって利用が制限されている状況が示唆された。逆に人為的な利用が比較的多かった場所は雪の多い県にみられ、雪解けによる春先の豊富な水がこれらの山菜・薬草資源の量や品質を向上している可能性が考えられた。さらにこうした雪国では、長い歴史の中で山菜や薬草を利用して来た文化的背景があり、近年でも山菜や薬草に対する利用頻度が高い。こうした文化的な馴染み深さも雪国での山菜・薬草利用の多さに影響していると考えられる。これらの結果は、社会的・気候的な要因が、生態系サービスの空間的な利用パターンの不均一性を引き起こしていることを示唆するものであり、地域別の過剰利用の抑制や未利用資源の開発など、将来にわたる生態系の持続的利用・管理にとって有用な視点をもたらすものといえる。


日本生態学会