| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-229  (Poster presentation)

大台ヶ原における自然再生15年の成果と課題
Results and challennges of 15 years of natural regeneration in Odaigahara

*樋口高志, 樋口香代((株)環境総合テクノス)
*Takashi HIGUCHI, Kayo Higuchi(KANSO Co.,Ltd.)

環境省は、様々な原因により生物多様性の衰退が危惧されている大台ヶ原の森林生態系の保全・再生を図ることを目指し、2005年1月に「大台ヶ原自然再生推進計画」を策定し、自然再生事業を進めている。現在は、2014年に策定された「大台ヶ原自然再生推進計画2014」に基づき、森林生態系の保全と回復を目指した防鹿柵の設置やニホンジカ個体群管理等の取組が進められている。2018年は自然再生推進計画に基づく取組が始められてから15年が経過したことから、森林生態系の保全・再生に関する成果と課題について取りまとめた。
森林生態系の保全・再生については、主に防鹿柵の設置とニホンジカ個体群の管理を行っている。防鹿柵は自然再生事業実施前のものを含め2018年までに62箇所、約73haと対象地域(703ha)の約10%に設置している。防鹿柵内では、林冠ギャップ地を中心に林冠構成種の後継樹が回復し、森林更新が進んでいる。また、下層植生も草本を中心に回復しており、地表性小型哺乳類や訪花昆虫の生息の回復に寄与していることが示唆された。しかしながら、ミヤコザサが林床に生育する防鹿柵内では、ミヤコザサの繁茂により新たな実生の定着や成長が阻害されており、今後は森林更新のためのミヤコザサの管理が課題となる。また、ニホンジカ個体群の管理は、糞粒法による生息密度指標が2001年に44.2頭/km2であったが、2011年に目標値の5頭/km2に近づき、2014、2015年は足くくりわなによる捕獲により100頭を越える捕獲を達成した。しかしながら、2016年にツキノワグマの錯誤捕獲等に配慮した捕獲方法としたため、以降、年間捕獲頭数が100頭未満となり、生息密度指標は増加傾向となり、2018年は14.2頭/km2となった。このため、防鹿柵外の植生の回復は進んでおらず、捕獲数の上乗せに貢献できるような捕獲手法やニホンジカの主な餌となっているミヤコザサの現存量を減らす等の生息環境管理の取組が課題となる。


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