| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-237  (Poster presentation)

福井県池ヶ原湿原におけるヨシ原の刈払いによる植生管理がハンノキの生育に与える影響
The influence of reedbeds mowing on growth of Alnus japonica in Ikegahara Mire, Fukui Prefecture Japan

*國永知裕(福井県自然保護セ), 北川博正(自然観察指導員福井), 八木健爾(株式会社BO-GA), 坂口奈美(株式会社BO-GA), 関岡裕明(株式会社BO-GA), 松村利幸(福井県自然保護セ)
*Tomohiro KUNINAGA(Fukui Nature Conservation Ctr.), Hiromasa KITAGAWA(Nature Interp. Soc. Fukui), Kenji YAGI(BO-GA Co.,Ltd.), Nami SAKAGUCHI(BO-GA Co.,Ltd.), Hiroaki SEKIOKA(BO-GA Co.,Ltd.), Toshiyuki MATSUMURA(Fukui Nature Conservation Ctr.)

湿原周辺の開発によって引き起こされる湿原の樹林化は,世界的に生物多様性保全上の問題となっている。約40年前からハンノキ林化が起こったと思われる福井県勝山市の池ヶ原湿原(標高609m)では,希少な湿生植物を保全するために2009年以降,湿原内のヨシ原に繁茂した低木状のハンノキの輪伐が行われてきた。しかし,伐採された個体の萌芽更新と新たな実生の定着が問題となっている。既往研究により,ハンノキは湿原の栄養塩や水位,土壌の酸化還元電位(Eh)等の環境に応じて樹高や幹数が異なる形態を示すことが報告されてきたが,伐採された個体が立地によってどのような形態を経て更新するのかは不明である。またヨシ原では実生が定着しないことが指摘されてきたが,ヨシの多さと実生定着の定量的な関係は明らかでない。立地別のハンノキの管理手法を検討する上では,以上の点を解明することが重要である。
本研究では,池ヶ原湿原内に設けた5×5mの9つの調査区において,全てのハンノキの幹長を調べ,過去3年の伐採後に発生した萌芽幹および新規加入実生と環境要因(ヨシの多さ,地下水のpH,Eh等)との関係を解析した。
調査区内では,322株1366本のハンノキが確認され,このうち伐採後に定着した実生は137株であった。実生の発生は,92%がヨシの少ない(0.1kg/㎡,6.0本/㎡)1つの調査区に集中し,ヨシ現存量と負の相関を示した。伐採後に発生した萌芽幹の年生長量は,調査区間で大きく異なり,pHやEhと正の相関を示した。また,株当りの幹数は,成長した個体群を対象とした既往研究で示されるような個体サイズやEhとの間の負の相関は不明瞭であったが,伐採後の経過年数やpHと負の相関があり,萌芽は伐採後一時的に増加することや成長が阻害される酸性条件下で多く発生することが示唆された。このようにハンノキは伐採後の再生過程においても立地環境の影響を受け,多様な形態を取りながら成長していくことが推察された。


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