| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-304  (Poster presentation)

葉は幼虫の成長に邪魔?産卵する枝の葉をすべて切り落とすハムシの行動の適応的意義
Adaptive significance of leaves-cutting behavior before oviposition in Temnaspis japonica.

*小林知里, 河田雅圭(東北大)
*Chisato KOBAYASHI, Masakado KAWATA(Tohoku University)

 植物の茎の中に産卵する際に、枝のほとんどの葉を切り落としてから産卵するという、仮に「剪定枝食者」とも呼ぶべき植食性昆虫が存在する。近年の演者らの野外調査により、主にハムシとゾウムシ上科に属する様々な分類群の種がこの行動をとることがわかってきた。陸上生態系において様々な適応を進化させ、著しい多様化を遂げた植食性昆虫だが、この行動はひとつの新しい適応の形と考えられる。しかし、なぜ「剪定」してから産卵するのかについて、その意義は未だ解明されていない。
そこで今回、こうした「剪定」行動の適応的意義を探ることを目的としてカタビロハムシを用いた野外操作実験を行った。寄主植物であるマルバアオダモについて、ハムシが葉を切った茎・人工的に葉を切った茎・葉がついたままの茎の3処理区それぞれに野外で採集した卵を移植し、操作を加えずハムシが産卵したままのものをコントロールとして卵や幼虫の成長を比較した。
  その結果、(1)葉がついたままの状態では幼虫中期までで全て死亡すること、(2)葉がついたままでは卵期と幼虫中期の死亡が特に高いこと、が分かった。さらに、卵を移植する際にできる傷口に対し、植物が組織を肥厚させる防衛反応が誘発されることが分かった。この傷口の肥厚は葉がついたままの状態で最も反応が高く、場合によっては卵が茎組織に押しつぶされて死亡する可能性も考えられた。
 本研究により、カタビロハムシの「剪定」行動の意義として、ひとつには卵期の植物の茎肥厚による死亡を避けること、そしてもうひとつには摂食開始後に幼虫の死亡を増加させる何らかの物質が葉より流入するのを防ぐため、という可能性が示唆された。なお、寄生蜂の寄生率を下げるためという可能性も仮説としては考えられたが、残念ながら本研究では寄生率がどの処理区でも非常に低かったため、寄生蜂の関与については今後の課題である。


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