| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-323  (Poster presentation)

腸管内菌叢が高シュウ酸植物摂食昆虫の代謝に及ぼす影響
Impact of gut flora on the metabolism of oxalate rich-leaf beetle

*宮城敦子(埼玉大学), 小島紀幸(東北大学), 大坪和香子(東北大学), 川合真紀(埼玉大学)
*Atsuko Miyagi(Saitama Univ.), Noriyuki Ojima(Tohoku Univ.), Wakako Ikeda-Ohtsubo(Tohoku Univ.), Maki Kawai-Yamada(Saitama Univ.)

エゾノギシギシ(Rumex obtusifolius, タデ科)はシュウ酸を葉に高蓄積し、沖縄を除く全国に分布する多年生草本である。植物において、シュウ酸は被食防御や根圏のAlイオン毒性の無毒化などに役立つことが報告されており、シュウ酸の高蓄積が植物の環境適応能力に重要な役割を果たしていると考えられる。一方、シュウ酸は二価の陽イオンと容易に結合し不溶化するという性質を持つ。そのため、動物では高シュウ酸植物の過剰摂取はミネラル不足や腎結石等の症状を引き起こす。しかしながら、コガタルリハムシ(Gastrophysa atrocyanea, 甲虫目)のようにエゾノギシギシを寄主植物とする昆虫が存在する。このような高シュウ酸植物寄主昆虫におけるシュウ酸動態の解明を目的として、エゾノギシギシを摂食させたコガタルリハムシの代謝解析を行った。CE-MSを用いてシュウ酸や他の一次代謝物の約50種を測定した結果、幼虫、成虫ともにシュウ酸を蓄積せず、乳酸やクエン酸などの有機酸を高蓄積することが明らかになった。シュウ酸はコガタルリハムシの腸管内で分解または排泄されている可能性が考えられた。腸管内菌叢がシュウ酸分解に関与する可能性を検証するため、孵化直後の1齢幼虫に抗生物質テトラサイクリンを浸潤させたエゾノギシギシの葉(TC処理葉)を24時間摂食させ、その後正常に生育した3齢幼虫および新成虫の代謝物解析を行った。その結果、幼虫、成虫ともにTC処理葉を摂食した個体ではシュウ酸の蓄積傾向が見られたことから、コガタルリハムシの腸管内菌叢がシュウ酸代謝に影響を及ぼすことが示された。また、産下卵のTC処理による除菌は孵化率やその後の成育に影響しなかった。このことから、コガタルリハムシのシュウ酸分解に関わる腸管内菌叢は産下卵に付着した親由来ではなく、摂食による取り込みの可能性が示された。


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