| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-434  (Poster presentation)

農業従事者との協働による環境保全型農法水田の生きもの調査
Biodiversity monitoring in collaboration with farmers in environmental friendly paddy fields

*石井潤(福井県里山里海湖研), 内田圭(横浜国立大学)
*Jun ISHII(Fukui Pref SATOYAMA Res. Inst.), Kei Uchida(Yokohama National Univ.)

三方五湖自然再生協議会の「環境に優しい農法部会」では、福井県の三方五湖地域の水田を対象として生きものをシンボルとしたお米のブランド化を検討している。本研究では、農業従事者との協働により水田の生きもの調査を行い、シンボルとなる候補種を探索すること、生物調査による農業従事者への自然環境と農業の関係に係る教育効果を検討することを目的とした。調査は、水田のカエル類を対象として2016年から2018年の3年間行った。調査した水田(3年間で合計11地域22区画)には、環境保全型農法水田と慣行農法水田が含まれる。調査の結果、カエル類は全体で5種類(絶滅危惧種2種を含む)確認された。地域別にみるとカエル類の種構成は3年間の調査で類似した傾向にあり、同じ水田(8区画)での2年間の各種の在・不在の一致率は、慣行田(1区画)を除けば80 %以上であった(3年間調査した水田はない)。一方、環境保全型農法水田に共通して出現した種類は確認されず、地域間比較において個体数がもっとも多いカエルの種類は必ずしも一致しなかった。カエル類の地理的な分布様式を把握するために広域の分布調査を行った結果、種間で地理的な分布様式が異なる傾向があった。このことは農業従事者と調査した水田のカエル類の種構成に、少なくとも地理的な要因が影響している可能性を示唆している。以上の結果から、カエル類においては特定の1種をシンボルすることはできないことが示され、地域の生物多様性保全の観点からは田んぼごとに生きもののシンボルを決めることが有用だと考えられた。調査に参加した農業従事者7名を対象としてカエル類5種類の名前の試験をした結果、正答率は平均82.9 %であった。自身の水田に出現したカエル類に限定すると、正答率は平均92.9 %に増加した(対応のあるt検定:P=0.056)。この結果は、本調査が農業従事者の自然認知の向上(カエル類の種名を覚える)に寄与した可能性を示唆している。


日本生態学会