| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-438  (Poster presentation)

道路トラップによるミクラミヤマクワガタ減少個体群の現状
The Decreasing Population of Lucanus gamunus on Mikura Is., the endemic stag beetle to Izu Islands

*岡奈理子(山階鳥類研究所)
*Nariko OKA(Yamashina Inst. for Ornithol.)

飛ばないクワガタで知られる遺存種のミクラミヤマクワガタは、世界で伊豆諸島のごく一部(御蔵島と神津島の2島のみ)に生息する。神津島での生息状況の悪化で、環境省RL準絶滅危惧種に指定された。もう一つの生息地、御蔵島(直径5km、標高851m)では、新種として記載された1960年以降、そして今世紀に入り、自然保護条例で採集が禁止された以降も、定量調査が一度も行われていない。
そこで2017年、島の古老を中心に生息状況の聞き取り調査をした結果、1980年代から1990年代に総延長約20kmの道路造成時に本種が激減し、以来、生息状態が回復していないことを把握した。
2017年、2018年の5~6月(地表出現期)に、総延長20kmの、都道(東斜面14km)・村道(西斜面6km)と、林道(舗装)、遊歩道(自然路)で、徒歩によるラインセンサスを行った。2017年は延べ32km、2018年は延べ50km、林道では雌雄の地表出現状況の変化を知るため、センサス頻度を増した(両年でn=32)。全センサスで死因も記録した。
その結果、都道、村道で出現頻度が低く、特に都道ではほとんど出現せず(平均1頭/km)、村民からの聞き取り結果に符合した。少ない出現頻度に加えて、死亡個体も過半を占め、全出現数の4割弱がロードキル、2割弱が熱死していた。
一方、舗装林道では平均11頭/km出現し、生存個体は平均76%を占めた。死亡原因は熱死が多く、5月半ばに路面40℃、湿度20%の過酷環境になることが起因して、晴天時には出現個体の半分が熱死した。昼行性歩行昆虫の本種は、車の通過頻度が少ない場合も、舗装路そのものが熱死トラップに働いていることが分かった。
都道では山側がコンクリートもしくは金網の高い擁壁と側溝、谷側のほとんども、コンクリート路肩と擁壁構造であり、村道でも厳しい環境が出現する。舗装道路がない島の南部を除き、本種の生息地の分断と、道路周辺の集団を激減させる大きな要因に働いたとみられた。


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