| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


シンポジウム S06-9  (Presentation in Symposium)

安定同位体比分析に基づく寒ブリの回遊履歴の復元
An attempt to reconstruct the migrational route of Yellowtail though isotope analysis

*太田民久(富山大学), 斉藤有(総合地球環境学研究所), 細川真梨子(富山大学), 川上遼介(Bioクラブ/氷見ラボ), 西尾正輝(氷見市教育委員会)
*Tamihisa Ohta(University of Toyama), Yu Saitoh(Res. Inst. Humanity and Nature), Mariko Hosokawa(University of Toyama), Ryosuke Kawakami(BioClub (NPO)), Masaki Nishio(Board of Edu. in Himi City)

魚類の回遊経路の把握は、対象種を保全管理する上で重要である。標識再捕法などの従来の研究手法は、ある程度成長した個体にしか適応できない点や大量標識が難しい点が問題であった。近年、このような問題点をカバーできる安定同位体比を用いた手法が注目されている。そしてさらに、年輪状に成長する脊椎骨切片の安定同位体比から魚類の移動履歴を推定する手法が開発された。現在、この手法を大型海産魚に応用した例は無い。本研究では、ブリの脊椎骨中ネオジム同位体比から、その回遊履歴の解析を試みた。
我々は、2018年1月に水揚げされた寒ブリ計15個体を入手した。10個体は富山県・氷見市沖、5個体は高知県・室戸岬湾で水揚げされた個体である。各個体の脊椎骨を取り出し、椎体をそれぞれ2つの円錐状に削り出した。試料については、椎体から切片を年輪ごとに分離した。切片はマッフル炉を用いて灰化させ、クリーンルーム内で硝酸等を用いて溶解した。その後、陽イオン交換樹脂およびLnレジンを用いて、サンプル溶液からネオジム元素を分離し、表面電離型質量分析装置を用いてネオジム安定同位体比を分析した。
日本近海の海水のネオジム安定同位体比は、日本海、太平洋および親潮間で値が大きく異なることが先行研究により分かっている(Amakawa et al. 2004)。本先行研究データと、我々が分析した脊椎骨中ネオジム安定同位体比を比較することで、ブリは日本海と太平洋間を行き来する個体が多いことが推定された。これらの結果より、脊椎骨中の安定同位体比から、大型海産魚の移動履歴が推定できる可能性が示唆された。


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