| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
自由集会 W03-1 (Workshop)
昆虫と菌類の相互作用は長い歴史をもち,子実体(キノコ)等を摂食する菌食性は昆虫の広い分類群でみられる.しかしながら,昆虫と菌類の相互作用が昆虫の進化および生態的プロセスにどのように影響したのかはほとんど調べられていない.ツツキノコムシ(甲虫目:ツツキノコムシ科)は全世界的に分布する菌食性昆虫であり,ほとんどの種が全生活史を通じて多孔菌類などの子実体に依存する.また多くの種は限られた属の菌類の子実体を寄主とすることが知られている.本研究では菌食性甲虫のツツキノコムシ類に焦点を当て,寄主利用の進化パターンと寄主特異性を明らかにする事を目的とした.まず,ツツキノコムシ科における寄主菌利用の進化パターンを明らかにするため,ゲノム中の超保存的領域(UCEs)および,3遺伝子領域の配列データを用いて系統関係を推定した.祖先形質推定解析から,寄主転換の頻度が低く,寄主利用の進化的な保存性が高いことが示された.この結果は特定の分類群の菌類子実体食への適応が他の菌類への寄主転換を制約していることを示唆している.次に,より詳細なレベルでの寄主特異性を明らかにするため,日本に生息するOctotemnus属に焦点を当て,近縁種間での寄主利用の違いを調べた.ミトコンドリア及び核遺伝子座を用いた系統解析から,これまでツヤツツキノコムシO. laminifronsとされていたものの中には,複数の系統群が含まれ,オス交尾器等の形態形質にも差異が確認された.タイプ標本に基づく分類学的検討の結果として,3新種を記載した.野外における寄主利用調査の結果,O. laminifronsとこれら3新種の間には寄主とする菌種やその利用幅に種レベルでの違いがあることが明らかになった.本研究は昆虫と寄主菌の関係が従来知られていたより分類群特異的で長期の進化的な時間スケールにわたることを示唆している.