| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


自由集会 W24-2  (Workshop)

包括的GCxGC/MS とRNA-seqによる多年草ハクサンハタザオの葉面脂質の標高二型解析
The comprehensive GC×GC/MS and RNA-seq analyses on altitudinal dimorphism of leaf wax contents in a perennial Arabidopsis halleri subsp. gemmifera

*湯本原樹(京都大学・生態研), 本庄三恵(京都大学・生態研), 佐々木結子(東京工業大学, オペラ), 太田啓之(東京工業大学, オペラ), 工藤洋(京都大学・生態研)
*Genki Yumoto(CER, Kyoto Univ.), Mie Honjo(CER, Kyoto Univ.), Yuko Sasaki(Tokyo Tech., OPERA), Hiroyuki Ohta(Tokyo Tech., OPERA), Hiroshi Kudoh(CER, Kyoto Univ.)

広い標高域にわたって生育する植物では、環境要因が標高に沿って劇的に変化する生育地に形態を変化させることで集団を成立させていることがよく観察される。この標高に依存した形態の差異は、しばしば遺伝的な分化を伴い、局所適応の実例として良く着目される。滋賀県の伊吹山には、多年生草本であるアブラナ科ハクサンハタザオが標高による生態型分化が報告されている。これまでの研究で、茎葉特異的に高標高型で葉面撥水性が高くなることが示された(Aryal et al., 2018)。茎葉とは、花茎上に生じる葉で、成長の初期には花芽を包んでいる。伊吹山の高標高域では、茎葉が現れる初春において最低気温が0度以下になる冬日の日数が多い。加えて、高標高域ではしばしば霧が発生し、葉の表面を濡らす。濡れた状態で、低温に暴露されることで凍結傷害を受ける可能性がある。このことから、高標高型の茎葉は、高撥水性を介した花芽の凍結防御に働くと考えた。
本研究では、撥水性の標高分化が葉面クチクラの成分の差に起因すると予想し、野外の葉サンプルと室内栽培株の葉サンプルに対し、定性分析(GC×GC/MS:包括的二次元ガスクロマトグラフ質量分析)および定量分析(GC-FID:ガスクロマトグラフィー水素炎イオン化検出)を実施した。また、RNA-seqを行い、網羅的に遺伝子発現を検出することで、クチクラ成分の標高分化に関わる遺伝子の特定を行った。加えて、茎葉に包まれた花芽を対象に凍結実験を行った。凍結ダメージの指標として、組織漏出液の電気伝導率を測定した。その結果、高撥水性を示す茎葉ではアルカン合成遺伝子であるCER1の発現が高まることで、アルカン、特にC31アルカンの量が有意に高くなっていることが明らかになった。また、花芽に対して凍結処理を行う場合に、水をかけた低標高型の花芽でのみ、凍結ダメージが有意に大きいことが示された。そのため、茎葉特異的な高撥水性は、高標高の早春の凍結環境への適応であることが示唆された。


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