| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


自由集会 W24-3  (Workshop)

花粉が発する蛍光がミツバチの訪花行動に与える影響
Pollen fluorescence as a visual cue for honeybees

*森信之介(京都大・院・農), 福井宏至(香川大・農), 大石雅典(京都大・院・農), 佐久間正幸(京都大・院・農), 川上真理(京都大・院・農), 月岡淳子(京都薬科大), 後藤勝実(京都薬科大), 平井伸博(京都大・院・農)
*Shinnosuke Mori(Grad. Sch. Agr., Kyoto Univ.), Hiroshi Fukui(Kagawa Univ.), Masanori Oishi(Grad. Sch. Agr., Kyoto Univ.), Masayuki Sakuma(Grad. Sch. Agr., Kyoto Univ.), Mari Kawakami(Grad. Sch. Agr., Kyoto Univ.), Junko Tsukioka(Kyoto Pharm. Univ.), Katsumi Goto(Kyoto Pharm. Univ.), Nobuhiro Hirai(Grad. Sch. Agr., Kyoto Univ.)

 多くの植物の花粉はUVの下で青色蛍光を発する。花粉に含まれる蛍光物質がもつ機能には以下の2つが考えられる。1つ目は花粉中に含まれるDNAのUVからの保護である。葯は多くの場合、花冠の外側へ突出しているため、花粉中のDNAは紫外線障害の危険に強く曝されている。蛍光物質はUVを吸収し、そのエネルギーを長波長の蛍光に変換して放出することによってDNAをUVから保護していると考えられる。2つ目に訪花昆虫が花を探索する際の視覚的ガイドとして機能していると考えられる。花粉蛍光は昆虫にとって食料へのガイドとなり、植物にとっては訪花を促して虫媒受粉を効率化できるという相利共生に寄与している可能性がある。本研究では花粉に含まれる蛍光物質の同定およびその生物学的・生態学的機能を明らかにすることを目的とした。
 これまでに植物5種の花粉から蛍光物質6種を単離し、クロロゲン酸などのヒドロキシ桂皮酸類と同定した。これらの蛍光物質は抗酸化活性を有しており、UVを青色蛍光に変換して有害エネルギーを外へ逃がすだけではなく、抗酸化剤としても機能してDNAなどの生体分子を保護していると推察された。また多光励起顕微鏡と透過型電子顕微鏡を用いた観察から、蛍光物質はポレンコートと呼ばれる細胞外粘液中に局在することが分かった。次に蛍光に対するセイヨウミツバチの視認性と被誘引性を調べるため、クロロゲン酸を含む蛍光ろ紙と無処理ろ紙を乗せた給餌器を用いて太陽光下で二者択一試験を行った。その結果、蛍光ろ紙には無処理ろ紙よりも有意に多い個体が訪れ、ミツバチは花粉蛍光を視認して誘引されることが強く示唆された。花粉が蛍光を発する植物は虫媒花に限定されず、風媒花であるアカマツやメタセコイアの花粉も青色蛍光を示した。このことから花粉に含まれる蛍光物質のより原始的な機能としてDNAの保護があり、その後進化の過程で昆虫によって蛍光が利用されるようになった可能性がある(Mori et al. 2018. J Chem Ecol 44, 591–600)。


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