| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
第7回 日本生態学会奨励賞(鈴木賞)/The 7th Suzuki Award
私が大学4回生の頃から研究対象としている熱帯低地降雨林は、世界で最も高い生産性・バイオマスをもつ生態系である一方、環境中に植物の光合成に必須である栄養塩(特にリン)が少ないという矛盾した特徴を持つ。なぜ、痩せた土地で熱帯樹木は素早く成長し巨大な森林を形成できるのだろうか?その背景には、熱帯樹木がリン欠乏環境に適応することによって生産性を維持するという進化的メカニズムがあると考えられている。
これまで多くの先行研究は、生産器官である葉に着目し、そのリン利用効率の上昇(例、落葉前にリンを再吸収し新葉に転流することで、少ないリンで効率よく光合成を行う)が重要なメカニズムであることを示してきた。しかし、おなじ熱帯林でも、リンではなく窒素が枯渇するとされる熱帯ヒース林では、葉の窒素利用効率の上昇が報告されているにも関わらず、生産性が強く制限される。このことは、熱帯林の生産性維持には、リン欠乏に特異的に働く他のメカニズムが関わっていることを示している。この観点から、私は、葉ではなく材組織の生化学的特性に基づく新たなメカニズムを提示した。すなわち材組織には細胞壁を結合するたんぱく質(窒素)を多く必要とするため、窒素が欠乏した際に材組織への窒素投資を減らすことができず、光合成への窒素投資が大きく低下する。一方、細胞壁にリンは必要でないため、リンの欠乏下では材組織へのリン投資を削ることで光合成へのリン投資を維持できる。マレーシアにおいてこの仮説を検証した研究を紹介し、これまであまり着目されてこなかった、非生産器官における特性が個体としての特徴や一次生産に大きな影響を与える可能性について説明したい。
また、本講演では、これまで私が生態学者として関わってきた、熱帯林の保全を目的とした研究についても紹介する。これらの研究を通して、生態学がどのように熱帯林の持続的利用に貢献できるのかについても議論したい。