| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) B01-01 (Oral presentation)
実効性比において多数派の性であるオスは,父性を獲得するために様々な繁殖戦略を取る.動物の体サイズは配偶者獲得や配偶子生産と密接に関係しており,繁殖戦略を左右する一方で,幼体期には成長や資源獲得にも影響する.そのため,幼体期の自然淘汰による体サイズ進化は,交尾行動をはじめとするオスの繁殖戦略を変化させると予想される.西日本に広く分布するヒメオサムシは大型の近縁種がいない地域で体サイズに大きな地理的変異を示し,その体サイズは主に幼虫期の餌(ミミズ)サイズで決定される.本研究では体サイズ進化がオスの交尾行動に与える影響を明らかにするために,九州北西部の体サイズの異なるヒメオサムシ集団の個体を用いて雌雄ペアを作成し,その交尾行動(精包形成,精包重量,交尾時間)を記録した.精包はオスがメスよりも少し小さいときにメス交尾器内の正しい位置(受精嚢がある膣奥)に形成された.本種の1例幼虫(卵)のサイズは捕食可能な餌サイズを決定し,かつメスの体長と相関するため,ミミズが大きい環境ではメスに大型化を促す淘汰が強く働き,そのメスと交尾するためにオスも大型化したと考えられる.精包を形成したペアに限定して解析すると,精包重量はオスの体サイズの影響をほとんど受けない一方で,交尾時間はオスの体サイズの増加によって大きく減少した.オスの体長と生殖腺重量は相関しており,大型化によって精液生産力が向上したオスは,交尾1回あたりの射精量を増加させるのではなく,交尾時間の短縮によって交尾回数を増加させることで父性を増加させているのかもしれない.この結果は体サイズが大型化した集団では精子競争が増加していることを示唆する.今後は体サイズの異なる集団でメスの交尾回数の推定やオスの精包置換(他のオスの精包の除去)の成功率などを調査し,自然淘汰による体サイズ進化が精子競争に与える影響を明らかにしていく.